2017.10.04

夏季シンポジウム2017 参加報告書 江川史朗(東北大学)

東北大学 生命科学研究科 田村研D3
江川史朗
単刀直入ですが、今回のシンポジウムは成功だったというのが、私を含め参加者全体の感想だと感じました。しかしながら、将来に向けた課題をホストと参加者で議論した結果、会の内容や雰囲気が参加してみるまで分からないことや、それに伴う参加への心理的ハードルが不本意に増幅されてしまっていることが、コンセンサスとして挙がっていました。よって、微力ながら将来参加を検討される方にとって何か役に立ちそうな情報を書かせていただきます。

(1)参加者の背景
私は、恐竜で"普通の生物学"をやることを試みています。私は幼い頃より恐竜の運動器官(主に手足など)の機能美に惹かれていたのですが、大学院を選ぶ段になって、石よりも生物が好きだった為に地質系の研究室に進学した場合の未来をどうも上手く思い描けないでいました。そんな時、発生生物学者が恐竜の研究を行っていたり、恐竜の研究者が発生生物学へ進出したりするニュースを耳にしました。これを好機と感じて発生生物学教室の門を叩き、形態進化の興味に基づいて発生生物学的研究を行っております。メインの手法は鳥類と"爬虫類"胚を使った非常に古典的な"切った貼った"の実験発生学です。

(2)参加してみた感想
普段は組織レベルでしか研究を行わない・議論の中心が進化になってしまう私にとっては、その生物学的に解像度の高い議論に刺激を受けるなど、発生生物学の"本流"に触れることで自身の考えを相対化できました。また、懇親会でも先生方は気さくにご歓談下さり、研究をする際の目の付け所など若い研究者が欲する話を惜しまずに話してくださいました(その後、腕相撲もしました)。加えて、同年代の研究者とも少し込み入った話ができたことやコネクションを作れたことも今後の研究生活を大幅に発展・強化してくれるものと感じております。このあたりの事柄が何よりの報酬だと感じております。

最後に、貴重な機会を用意してくださった運営側の皆様に深く感謝申し上げます。
2017.07.21

岡田節人基金 海外派遣報告書 東島沙弥佳(大阪市立大学)

大阪市立大学大学院 医学研究科
器官構築形態学(第2解剖)
助教 東島 沙弥佳
成果の概要 
 今回私は岡田節人基金より若手研究者海外派遣助成を頂き、第18回国際発生生物学会 大会 (The 18th International Congress of Developmental Biology) に参加すべくシンガポールへ赴きました。私は "Tail reduction process during human embryonic development" と題し、ヒト胚発生過程では一度形成された尾部が体節数の急激かつ著しい減少を伴って退縮することについて、ポスターで報告しました。関空から6時間ほどで到着した開催地、シンガポール。飛行機から降りるなり全身を包む熱帯らしい蒸した空気に、東南アジアを色濃く感じます。2017年6月18日から6月22日の5日間、600人を越す参加者がシンガポール国立大学に集いました。この蒸し暑い国で、わんさと集まった発生の研究者とアツい議論でも交わせるだろうかと、早朝のシンガポール、寝不足の頭で考えながら私の学会は始まりました。今回の学会に参加し得られた重要な成果は、自身の研究がもつ意義の再認識と、論文化に向けてのモチベーションを再獲得できたことです。
 ...と、このように真面目に、型通りな報告文を書くことは容易い。参加した学会を誉め称えるのも容易い。だがしかし、それではおもしろくないし正直でない部分もある。せっかく貴重な助成を頂いて参加をした訳だから、ここでは思ったところや感じたところをできるだけ正直に報告しようと思う。その方が、後進に役立つ情報となることだろう。

第18回国際発生生物学会大会について
 本大会は4年に1度開催される国際大会で、演題を申し込んだ頃は、同頻度で開催されるオリンピックよろしく、さぞ盛大でおもしろい学会なのだろうと妄想を膨らませていた。でも会期が近付いてくると段々、気になる点が目立つようになってきた。たとえば、プログラムを見てみると、口頭発表がやたら少ない。会期が5日間もあるというのに、口頭発表は全部で80題ほどである。ほとんど欧米からの招待演者なのではないかという考えがふと頭をよぎる。口頭発表がこれほど少ないということは、その分ポスターが滅茶苦茶多いのではないか。...まさか有名どころからのご指導トークと、有象無象のポスター発表という構図なのか、と、考えているうちに日が過ぎた。会期がさらに迫る。プログラムによると昼飯時(12時-14時)と夕飯時 (19時-21時) がポスターセッションにあてられているようだが偶数奇数のコアタイムについては不明。さらに、かなりタイトなポスター貼り替え時間が記されている。一体どうなることやら、よくわからないまま学会当日を迎えた。 
 結果的に、私の事前予想はある程度的中していた。口頭発表の大半は欧米からの招待演者で占められており、有名な先生のご講演を拝聴するという印象が強かった。だがこれは開催頻度による問題で、もしかしたら本学会自体、4年に1度のお祭り感覚なのかもしれない。しかし個人的には、もう少し若手の口頭発表数を確保するべく、口頭発表用の会場をあと2つは増やしても良かったのではないかと感じている。無論この手の議論には賛否両論あり、予算の問題もあるのは理解しているが、私個人としてはそう思った。特別残念に思ったのは、ポスター発表についてである。オンラインでのアブストチェックに手間取る(学会関連誌に掲載されていたようだが、自身の大学では購読しておらず、結局チェックできなかった)のみならず、実際のポスター会場には屏風のごとく設置されたポスターボード。90度くらいの角度を隔てて隣り合う、私と次番のポスター。発表時間には奇数偶数の別は無い。...なんだか嫌な予感は的中し、隣人の盛況度合いによっては割を食う人がでる、あるいは人気者同士で潰し合う(どっちのポスターも見にくい)という構図が其処此処で見られた。
 ここまでネガティブな印象ばかり書き連ねたが、ポジティブな印象を持った点も勿論ある。興味深かったのは、日本発生生物学会と国際発生生物学会のトレンドの違いである。本大会には、ヒトの先天異常や疾病を念頭に置いた研究成果発表が一定数見られた。こうした傾向には勿論、大きなグラントを獲得するための目論みも見え隠れするのであるが、
グラントの件はさておき、医学や栄養学、農学など理学以外の諸分野との連携それ自体は日本発生生物学会にも今後取り入れられればよいなと感じた。動物学や進化学、分子や再生など理学諸分野との連携は勿論密であるに限る。だがそれだけでなく、もっと広い視野を持ち、人と交流し連携し議論し、自身の研究や学会の今後の発展性を考えていくことの重要性を改めて感じた。

自身の発表内容、発表の様子と得られた成果
 私はこれまで、「ヒトはどのようにしてしっぽを失くしたのか」の解明に向け、ヒトを含む短尾有羊膜類における尾部形態形成過程について研究を進めてきた。ヒトのしっぽは出生時には完全に消失しているが、胚発生過程では他の有尾有羊膜類と同様に尾部が形成される。成体における形態変異はすべからく、発生過程の変異から創出されるため、ヒト胚発生過程における尾部退縮過程と機構の解明は、ヒト上科の進化過程における尾部短縮を復元する上で欠かせない知見である。実際のヒト胚子標本において、尾部体節数の推移を調べたところ、尾部体節数はカーネギー発生段階16で最多に達し、その後約5個分減少することが明らかとなった。その後尾部体節数には大きな増減が見られないことから、この尾部体節数の急激な減少が、ヒト胚子期に生じる尾部短縮と大きく関連していることが明白となったので、これを発表した。
 私の発表は会期中最初のポスターセッションにあたっていた。持ち時間は2時間だ。そのうち半分は自分の発表をし、残り半分で他のポスターを見て回ろう、と最初は考えていた。ところが始まってみると、大量の人間がポスタースペースに流入してきて、一気に辺り一面大混雑状態に陥った。私のポスターにも、大量の人々がやってきた。長篠の鉄砲三段撃ちのごとく、数人への対応を終えるとその後ろにまた別の数人が控えていて、とにかく人が途切れない。このような事態は初めてであった。結局2時間丸ごと自分の発表に用い、大体50人の人々と交流した。数は多いものの来訪者の興味がある点、指摘点というのはおおよそ似通っており、本研究で使用したヒト胚標本について、ならびに今回報告した尾部体節数の急激な減少に寄与し得る細胞挙動や分子メカニズムについての議論が中心だった。しかし中には、本成果が論文化されているか否か、どこに投稿するのか、論文化までどの程度時間がかかりそうなのか、といったような研究の進行状況に探りを入れる来訪者も一定数おり、自身の研究の意義の大きさを実感できたと共に、可能な限り迅速に論文化へ向け動かねばならないという焦燥感を改めて痛感できた。数多くの来訪者からの指摘も、論文を書くにあたり注意すべき点を如実に洗い出してくれた。
 今回、自身の成果発表では論文化へ向けた具体的なステップや対策が見えてきた。また、今後自身が関わって行くであろう学会運営の方法についても考える機会を多く得た。総合すると、本学会にはプラスマイナス両方の思いを抱いているが、私にとっては非常に興味深く、楽しく、実り多い出張をさせて頂けたと思っている。

謝辞
 このような貴重な機会を得ることができたのも、岡田節人基金からの支援があったからこそと思います。末文ながら深謝申し上げます。
2017.04.21

岡田節人基金 海外派遣報告書 岩﨑-横沢 佐和(JT 生命誌研究館)

JT 生命誌研究館
岩﨑-横沢 佐和
この度、岡田節人基金海外派遣助成を頂き、2017年3月15日から18日にかけてドイツのキールにて行われたJoint Meeting of the German and Japanese Societies of Developmental Biologists(日独発生生物学会合同ミーティング)に参加しました。キールはデンマークに程近いドイツ北部の都市で、バルト海に面しており、北欧との玄関口にもなっている美しい港街です。ミーティングでは日本とドイツをはじめアメリカやイギリス等10カ国以上から約230名が参加し、朝8時半から夜の6時まで会場での発表、その後9時半まで連日のソーシャルプログラムと実に密度の高いプログラムで、最先端の研究結果に活発な議論と交流が行われました。
 私が本ミーティングに参加した目的は、一つには、節足動物鋏角類のクモの発生研究が非常に面白く魅力的なテーマであるかを伝えることでした。もう一つは、実験発生生物学などの新しい学問分野を創出してきたドイツの風土を肌で感じるとともに、これからの発生生物学の動向を学ぶことでした。
 今回私は、学会初の試みであるe-Poster ( 従来の紙ポスターと異なりスクリーンに映るポスター)形式での発表に挑戦しました。e-Poster発表者には5分間の口頭発表が与えられます。短い時間ではありますが、私にとっては初めての国際学会での口頭発表でした。入念に準備を行い、その結果、発表は自信を持って行うことが出来ました。タイトルは「クモ初期胚の一部の細胞を用いたRNA-Seq解析による、体軸形成に関わる新規遺伝子の同定」です。クモの体軸形成機構がショウジョウバエと大きく異なること、解析技術を一歩進め、未知の体軸形成に関わる遺伝子を同定したことを報告しました。発表ツールの目新しさもあり、30名程の方々に聴いて頂くことが出来ました。また、同ポスターセッションにはハエ・トリボリウム・クモと各種の節足動物を用いた研究発表が集まっていたので、普段出会わない方々に発表を聴いて頂くことが出来たのではないか、その点では大きなメリットがあったと感じています。一方で、e-Posterの会場は紙ポスターの会場と少し距離があり、従来のようにポスターを眺めて歩きながらふと目に止まったポスターをじっくり見るという機会が失われており、デメリットも感じました。ポスター発表では、発表者がずっと立っていることが、対面でのコミュニケーションに繋がり、議論をもたらすのだとこの時改めて実感しました。
 また、一番の印象深い出来事は、特別講演でいらしていたノーベル賞受賞者のEric F. Wieschaus先生に私のポスターを見ていただいたことでした。身体から好奇心が溢れ出るようにお話しされる方でした。それに誘発されるように私も自然と熱く主張してしまいました。とても楽しく素晴らしい時間でした。ただ、最後に議論が深まってくると私の知識不足から言葉足らずになり、非常に悔しい思いもしました。今後より広い知識と自分の言葉を持ち、世界中の研究者ともっと研究について語りたいと、強く思いました。
 発表に関するもう一つの印象深い出来事は、日本から来ている先輩女性研究者の発表が素晴らしかった事でした。背景知識から問題提起へ、実験手法を簡潔に説明し、得られた結果から考察まで、その面白さや発見の興奮が伝わる発表にいくつも出会うことができました。懇親会で色々お話をする中で見えてきた、様々なハンデを乗り越えて輝く立ち姿に、憧れとともに目指すべき方向が掴めたような気がしています。
 研究発表に関して、私はこれまで「良い発表をしさえすれば伝わるだろう」と漠然と思っていました。でもそれは一方的な考えであったかもしれません。本当の意味で誰かに伝わるということは、深いところでのコミュニケーションなのだと、今回の一連の経験で気がつきました。お互いの研究を称え合えるだけの背景知識や寛容性を持たないとそれは達成できないように思いました。
 さて、もう一つの目的であったドイツの風土について、今回私が初めてドイツに渡航して受けた印象は、音楽などの芸術、発生生物学などの学問、つまり文化的な側面において後世に影響を与える優れた理論やモデルの提唱者が多いのではないかということでした。一つには、会期中のソーシャルプログラムの一つに、ニコライ堂でのパイプオルガンコンサートがあり、かの有名なバッハの「トッカータとフーガ ニ短調」を聴いたことにあります。バッハは自身の築き上げた音楽理論に基づいて作曲を行い、西洋音楽の基礎を作った音楽家です。私はコンサートを聴きながらフーガの連続的なパターンの繰り返しと、パターンが次第に変化していく様に発生現象の美しさを思い浮かべていました。 二つ目はHans Meinhardt 先生を偲んだレクチャーを聞いたことによります。Alfred Gierer先生とHans Meinhardt先生は今から45年前にヒドラの再生現象におけるパターン形成の数理モデルを提唱しました。現象を詳細に記述することもとても重要な仕事ですが、理論やモデルの構築はその分野の発展に大きな推進力を与えるのかもしれないと感じました。
 発生生物学研究に携わってまだ間もない私ですが、本ミーティングでは、幹細胞や器官形成だけでなく、進化や数理モデルの研究者が幅広く集まり、現在発生研究者を魅了するトピックが凝縮されていると感じました。また、遺伝子の機能解析だけでなく、研究全体が細胞の動きや数理モデル化への方向性をより強めていることを実感しました。日本にいるだけでは掴みにくい、世界中の研究に触れることができました。また、どのような人たちが研究をしているのかを知ることができたのも大きな経験となりました。
  最後になりましたが、本ミーティングの参加に関してご支援いただきました日本発生生物学会関係者の皆様ならびに初代JT生命誌研究館館長でありました故岡田節人先生に心より感謝いたします。本当に貴重な経験をありがとうございました。
2016.11.17

秋季シンポジウム2016報告書 田中翼(熊大)

熊本大学 発生医学研究所 器官構築部門 生殖発生分野
田中 翼
この度は日本発生生物学会の旅費支援をいただき、平成28年10月19日から21日に静岡県三島市の市民文化会館にて開催された秋季シンポジウム2016に参加させていただきました。秋季シンポジウムに参加するのは、今回が初めてでした。幅広い分野の研究発表や4つの遺伝研企画、ランチタイムの広海先生によるプレゼンテーションセミナー、そして、Didier Stainier博士によるplenary lectureと盛り沢山の内容で、密度の濃い充実した3日間となりました。特に今年は、熊本地震の影響で熊本大会が中止になったこともあり、最新の研究成果についての知見を得る貴重な機会となりました。また、エクスカーションとして訪れた沼津港深海水族館では、シーラカンスをはじめ普段見ることのできない数々の奇妙な深海生物たちに心踊らされました。

 私自身は、「卵黄タンパクの取り込みによる細胞極性と生殖質の形成制御」についての発表を行いました。この研究は、卵黄タンパクの取り込みには、これまで知られてきた「胚発生に必要な栄養素の蓄積」という役割に加えて、「細胞極性や生殖質の形成制御」という新たな役割があることを示すものです。多くの方々から貴重なご意見・ご指摘をいただき、これから研究を発展させていく上で非常に有意義な時間となりました。

 以上、簡単ではありますが秋季シンポジウム2016の報告とさせて頂きます。最後になりますが、本シンポジウムへの参加にあたり、ご支援を賜りましたことに深く感謝申し上げます。
2016.08.23

岡田節人基金 海外派遣助成報告書 池田達郎(京大)

75th SDB with 19th ISD成果報告書

京都大学大学院理学研究科 生物科学専攻 動物学教室
動物発生学研究室 博士後期課程3年
池田 達郎
今回私は、岡田節人基金若手研究者海外派遣助成をいただきまして、8月4日から8日までアメリカ、ボストンで開催されたSociety for Developmental Biology 75th Annual Meeting with International Society of Differentiation 19th International Conference (75th SDB with 19th ISD)に参加してきました。私にとって今回が人生初の訪米となりました。アメリカは科学研究で世界をリードしてきた国だと思うので、そのアメリカの発生生物学会はどのようなものかと、参加する前から非常にわくわくしていました。また、学位取得後の自身の研究の方向性を考えるうえで役立つヒントを得られればと期待していました。

 ボストンはアメリカで最も歴史のある街の一つですが、高いビル、大きい建物が並び、訪れてみると想像していた以上に都会でした。チャールズ川をはさんだ対岸のケンブリッジ市にはマサチューセッツ工科大学とハーバード大学もあり、この地がアメリカの科学の礎を築いたのかと考えると、非常に感慨深いものがありました。

 今回の合同大会は非常にプログラムの密度が高く、毎日午前7時台から企画が始まり、午後6時ごろまで口頭発表のセッションがおこなわれ、午後8時から11時までポスターセッションがおこなわれました。ぶっ通しで口頭発表を聞いたあとさらにワイン片手に侃々諤々ポスター前で議論するアメリカの研究者たちの姿を見て、そのパワフルさを肌で感じました。

 私はポスター発表で、「ホヤ胚の予定脳細胞においてリプレッサーによる時間的な調節が脊索のプログラムを抑制する」という内容で発表をおこないました。10名程度の方に話を聞いていただけました。ホヤというメジャーでないモデル生物の研究発表でしたが、聞いてくださった方々はほぼ全員が脊椎動物の研究をされていて、異なる生物の研究者の視点から多くの意見をいただけました。特に「このメカニズムは進化的に保存されているのか」という問いが多く、その点に関する他の生物での先行研究の読み込みが甘かったと感じたため、今後は意識して勉強しなければと感じました。
 今回私はポスター賞の選考に応募していたため、2人の審査員の方がポスターに来られたので、研究成果のアピールをしました(残念ながら受賞は逃しました)。その際1人の方に、「大きな夢を語りなさい。君の発見がどう医療など大きなことに貢献するのかをもっと語るんだ」という意見をいただきました。私はこれまで「生物がどう生まれどう生きるのかを徹底的に理解したい」というモチベーションで研究を進めてきました。しかし現象を解明するだけでなく、その研究成果がどのように他人の研究にインパクトを与えるか、世界を変えうるかということを、発表の前に徹底的に考えておくことが、アピールのために重要であるということを認識させられました。

 他の人のポスター発表を聞く際、すでに人が集まって議論が活発になっている所に入っていくのは、英語を最初からフォローするという意味でも大変に感じました。一方で、まだ聴衆が集まっていない人に話しかけると一から丁寧に説明してくれるし、その後会場ですれ違うたびに声をかけてくれました。国際学会のポスター発表で誰かの話を聞きたい場合は、人が集まる前からかじりつくのがコツなのかなと思いました。

 学生、新進気鋭のポスドクおよび若手PI、一度は名前を聞いたことがある超大御所と、様々な人がセッションで話していました。これらアメリカの研究者の発表を聞いていて鮮烈に感じたのは、プレゼンテーションが洗練されていてスマートであることです。スライドが計算されて作られていて、ジェスチャーも上手く、いかに発表の場を大事にしているかが伝わってきました。また話す内容の密度が非常に濃く感じました。これは英語と日本語の言語構造の違いに起因するのかもしれません。私には欧米人の英語のプレゼンテーションを聞き取れない部分がどうしても存在して、このヒアリングの限界を押し上げることはとても大変に感じます。しかし、科学が英語を共通言語におこなわれている以上、英語能力を伸ばすために際限なく努力していかなければならないと、今回の学会で痛感しました。

 75th SDB with 19th ISDに参加して、自身の研究を発表し意見をもらうだけでなく、アメリカの発生生物学の世界の一端に触れ、色々なことを異なった視点から見つめ直すことができました。この経験を生かし、今後の研究者としての自身の将来を模索していこうと思います。最後に、今回の学会参加を援助していただいた日本発生生物学会ならびに関係者の皆様、そして岡田先生に深く感謝いたします。
2016.08.09

岡田節人基金 海外派遣助成報告書 武藤玲子(京大)

岡田節人基金Marine Biological Laboratory (MBL) Summer Course派遣助成を頂き誠にありがとうございます。2016年6月4日から7月17日にアメリカのウッズホールで開催されました、MBL Embryology course: Concepts and Techniques in Modern Developmental Biologyに参加しました。美しい海に囲まれたMBLを思い出すと、まるで夢であったかのようにさえ思います。
 私は名古屋に生まれ、旭川医科大学へ入学し2009年に医師となりました。その後3年間レジデントとして公立陶生病院で研修を行い、さらに3年間腎臓内科医として名古屋大学医学部付属病院と岐阜県立多治見病院で勤務しました。2014年に名古屋大学大学院医学研究科に入学し、発生や進化の考え方から医学を見たら新しいことがみえるのではないかと思うようになり、昨年4月より京都大学大学院理学研究科の高橋淑子研究室でお世話になっています。ニワトリやウズラを用いて始原生殖細胞(Primordial germ cell: PGC)が血管を移動し生殖巣に至る仕組み、PGCの移動に伴って血管のパターン形成が変わる仕組みを研究しています。私は今回のコースに三つの目的をもって参加しました。ひとつは多種多様な生き物の発生プロセスを学ぶこと、二つめは発生学の基本的な手技をもっと身につけること、三つめは国際的な参加者と日頃の研究について思う存分話し合うことです。
 6週間にわたり、月曜から土曜の午前中は講義、それにもとづくディスカッションを行い、午後は夜遅くまでさまざまな生き物を用いて実験を行いました。
 MBLでは毎週金曜の夜にノーベル賞受賞者を含む最先端の研究者がレクチャーをオープンに行い、コース参加者だけでなく、若者からお年寄りまでたくさんの人々がそこに集い楽しんでいるのを目の当たりにし、私が今まで知っているものとは異なる学問の土台を感じました。日曜は海で生き物の採集をしたり、ディレクターのRichard BehringerやAlejandro Sanchez Alvaradoのおうちでパーティーをしたり、ケープコッドでクジラを見たりと、まさによく学びよく遊んだ毎日でした。扱った生き物は、ウニ、線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル、プラナリア、ニワトリ、マウス、ホヤ、トカゲ、カメレオン、オポッサム、ヒドラ、クマムシ、クラゲ、ナメクジウオ、半策動物、軟体動物、環形動物などです。学んだ手技としては、免疫染色、軟骨染色、神経管やZPAやhypoblastの移植、細胞のアブレーション、エレクトロポレーション、CRISPR、コンフォーカルを用いたイメージング、マイクロCTを用いた形態解析、3Dプリンターを用いた発生モデルや道具の作成などです。
 特にアフリカツメガエルの講義と実習が印象的でした。Richard Harlandは原腸形成過程と分子メカニズムについて黒板に絵を描きながら説明し、さらに胚の扱い方や観察の方法について教えてくれました。John YoungはX. laevisとX. tropicalisのマイクロインジェクションのコツについて教えてくれました。さらにKeller explant/sandwichはこの手技を最初に行ったRay Keller本人より実演がありました。私は免疫を司るprimitive myeloid cellがどのように移動し、創傷に反応するかを観察しました。ステージ14でprimitive myeloid cellは胚の頭側にあるblood islandに集積していることから、頭側のmembrane GFP transgenicと尾側の通常胚をくっつけて観察しました。(Chen et al., 2009; Costa et al., 2008). 細胞移動のパターンは、primitive myeloid cellをラベルしたLurp-1 GFP transgenic においても観察し、タイムラプス画像を作成しました。Asako ShindoとChenbei Changがサポートしてくれました。また、これらの実験の中で、ステージ14で私のまつげを用いて胚を半分に切ると、胚がたとえ尾側だけであっても4日間成長し泳ぐことがわかり、とても驚きました。この尾側だけの胚の神経はどのように分布しているのか疑問に思い、6F11と acetylated tubulinを用いて免疫染色を行いました。これらのデータは、2週間に1回shown and tellというプレゼンテーションをする時間があり、仲間に助けられ英語でまとめ、発表することができました。
 今回のコースに参加し、発生や進化についての知識を深め、クラシカルな手技から最先端の実験方法について学ぶことができました。また世界中から集まった参加者と研究についてだけでなく文化や歴史について話し合うことでより深く相手を理解することができました。当初の三つの目的は達成でき、それ以上のものが得られたと思います。このコースでの経験を自分自身の研究にいかし、また出会った仲間とのつながりをこれからも大切にしていきたいです。このような貴重なコースに参加するチャンスを頂き、いつも応援してくださっている高橋淑子先生、丸山彰一先生、阿形清和先生をはじめ、高橋研のみなさま、日本発生生物学会のみなさま、そして岡田節人先生に心から感謝申し上げます。
2015.10.19

岡田節人基金 海外派遣助成報告書 根岸剛文(NIBB)

今回、岡田節人基金派遣助成のご支援のもと、中国・西安で開催された「2015年アジア太平洋発生生物学会議」に参加しました。初めての中国ということもあり、渡航前は若干不安がありました。実際西安到着後、事前にメールのやり取りで行っていたホテルの予約について行き違いがあり、スムーズに会議参加というわけにはいきませんでした。しかしながら、現地の学生スタッフの方が手厚くサポートしてくださり、特に大きなトラブルに発展することなく、現地にて手続きできました。また滞在したホテルにおいてもスタッフの方も、会話による意思疎通はできませんでしたが、漢字などを使って、親身にお世話してくださり、とても快適に過ごすことができました。出された料理も自分の口に合っており美味しく、朝・昼・晩の食事がとても楽しみでした。特に、会場でお昼ご飯として配られるお弁当が暖めてあったのが、驚きと同時に嬉しかったです。初めての中国でしたが、とても好印象でまた是非訪れたいと思っています。

 会議では、自分の研究テーマである「カタユウレイボヤの表皮細胞における新奇膜構造と細胞分裂」について発表しました。当初はポスター発表のみでしたが、ショートトークに選ばれ、多くの参加者の方に自分の研究について、聞いて頂けました。発表後もいくつか質問や提案を頂き、とても有意義なものになりました。特に最終日には、ホヤを使って研究してみたいという中国人研究者の方とも話すことができました。もし、自分の発表がきっかけとなってホヤを扱う研究者の数が増えることになればとても嬉しいです。

会議全体では、口頭発表される研究者は、ハイインパクトな雑誌に載せている方々が多く、中国の研究の活発さを垣間みました。また、ゼブラフィッシュを用いた研究が多く、発生から病気のモデルまで幅広く利用されていました。会議の中で、最近できた巨大なゼブラフィッシュリソースセンターの紹介も行われ、その発表の中で、世界で報告されるゼブラフィッシュ論文の15%以上が中国所属機関からのものということにとても驚きました。

 ポスター発表の多くは、学生の方達によって行われていました。私が話を聞いた皆さん、とても熱心に上手な英語でそれぞれの研究を紹介していました。途中、聴衆との議論が活発になると、時折中国語が混じってくる等、中国の学生さんと話していると同じ非英語圏の研究する者として、共感できる部分がたくさんありました。

 このように、今回、この会議に出席することで、自分の研究を紹介し、フィードバックを得るだけでなく、様々な貴重な経験をすることができました。また、今回の会議の参加者には2016年に熊本で開かれる日本発生学会に参加を予定されている方もいて、再会するのが楽しみです。このような素晴らしい経験を支援して頂き、岡田先生、そして日本発生生物学会ならびに関係者の皆様に感謝致します。本当にありがとうございました。
2015.06.30

岡田節人基金 海外研究者招聘助成報告書 西田宏記(大阪大学)

2015年6月に筑波で行われた発生生物学会のシンポジウムの演者としてユタ大学からMike Shapiro氏を招聘しました。前会長の阿形さんから、発生学会で動物植物合同のセッションを行いたいとの依頼があり、東京大学の塚谷裕一さんと私でセッション(Topics in plant and animal development:http://www2.jsdb.jp/kaisai/jsdb2015/program-e.php#S05)をオルガナイズすることになりました。動物植物合同のセッションの意図は、植物関係の研究者にももっと発生学会に参加して欲しく、動物研究者にももっと植物のことを知ってもらいたいということです。動物関係の演者は3人としました。雌雄同体のホヤで自家受精が妨げられるしくみを研究しておられる名古屋大学の澤田均さん、ハトの品種多様性の遺伝的背景を研究しておられるMike Shapiroさん、金魚の品種多様性の遺伝的背景を研究しておられる台湾Academia Sinicaの太田欽也さんをお呼びしました。自家受精が妨げられるしくみや品種多様性を選んだのは、植物関係の発生研究者にもなじみやすいと考えたからです。このうちMike Shapiroさんの招聘を岡田節人基金にサポートしていただきました。
 Shapiroさん(http://biologylabs.utah.edu/shapiro/Shapiro_Lab/Index.html)の講演はハトの品種(350品種くらいあるらしい)における変異遺伝子の同定で、例えば、足に羽毛が生える変な品種ではTbx5やPitx1の転写調節領域に変異が起こっているとか、羽毛で首のところに襟ができる品種では、EphB2に変異があり神経堤細胞の移動に異常があることがわかったという話でした。品種多様性の遺伝的背景に関しては、海外では犬やペチュニアなどを用いて研究が進んでいるのですが、日本ではあまりそのようなアプローチは行われていません。日本の若い研究者にこのようなおもしろい研究もあるということを知っていただくという意味でも意義があったと思います。おかげさまで、シンポジウムには200人ほどの方に来ていただき、また、当日のみ参加された植物研究者もおられたようでした。
 岡田節人基金はグローバルな視野に富む研究者の育成を目的として、特に若手の研究者の育成に主眼をおいて岡田先生により設立されたものです。Shapiroさんには懇親会において、日本の若手研究者向けにスピーチをお願いしました。また、ポスター賞授賞式にて受賞者に賞状を渡していただきました。写真はその時のものです。
 以下に、大会後にShapiroさんに書いていただいた、大会参加の印象と若手に向けてのメーセージを添付致します。

Dr. Shapiro氏からのメッセージ

I had the pleasure of attending the Japanese Society of Development Biologists (JSDB) meeting for the first time this year. I am grateful to Hiroki Nishida and Hirokazu Tsukaya for inviting me to the meeting, and for assembling an outstanding symposium on Topics in Plant and Animal Development. I enjoyed the meeting very much, in part because of the excellent science and collegiality, and also because of the hospitality and welcoming spirit I encountered virtually everywhere during my visit. At the meeting itself, I found two things especially notable. First, the creativity of Japanese developmental biologists continues to impress me. I saw many presentations that used non-traditional model organisms to address fundamental topics in development and cell biology. These organisms might not have been the easiest choice (e.g., fewer developmental and genetic tools), but they can offer important new insights that are difficult to glean from more widely used species. In particular, I was inspired by the diversity of marine organisms being studied in Japanese labs, and how some of these organisms were being developed as true experimental systems. Second, I admired the bravery of the rising generation of scientists ? the graduate students and postdocs ? who gave excellent talks in their non-native language. For better or worse, the global scientific community communicates primarily in English, including most of the top journals in our field. For this reason, I am glad to see that the JSDB meeting is held primarily in English. With such creative work being done by some of the youngest investigators, developmental biology in Japan will continue to make key contributions to the field in the future, and training the next generations of scientists to disseminate their research as broadly and effectively as possible should remain a high priority. Finally, I wish to thank the Okada Fund for their generous support that enabled me to attend the meeting.

Mike Shapiro
大阪大学・理学研究科・生物科学専攻 西田宏記
2014.11.28

日本-スペイン合同シンポジウム 参加報告書 萩原奈津美(関西学院大)

関西学院大学大学院
理工学研究科 生命科学専攻
萩原 奈津美
今回、日本発生生物学会の旅費支援をいただき、スペインで行われたSpanish Society for Developmental Biologyと日本発生生物学会の合同大会に参加いたしました。参加を決めた当初は一人での海外渡航と、自らの英語力に大きな不安を抱えていました。実際、現地到着時間が夜中だったために、タクシーでホテルに向かった際、高額な料金を請求され数十分値段を交渉するといったハプニングもありました。その夜は無事に発表して日本に帰れるのだろうかと不安がつのりましたが、せっかくここまで来たのだから、いろんな人との出会いを楽しもう、と自分に言い聞かせ、次の日を迎えました。幸運にも2日目には、以前、他学会の特別企画に参加した際、お世話になった研究者の方と再会することができ、知り合いの人がいるということに張りつめていた緊張の糸がほぐれました。
 そして迎えたポスター発表の日。私は「膜反転に伴って新たな機能を発揮する膜蛋白質が幹細胞分化を誘導する」というテーマで発表を行いました。緊張の面持ちで立っていましたが、はじめはなかなか質問してくれる人が来ず、焦る気持ちもありました。そこで、少しでも足を止めてくれた人がいたら、勇気を出してこちらから声をかけてみることにしました。その結果、専門が異なる方もいらっしゃいましたが、慣れない英語での説明にも関わらず、複数の人に興味を持っていただくことができ、有意義なディスカッションに発展させることができました。
 また、最終日の懇親会では、10名ほどだった日本人発表者の方全員とお話しすることができました。世界の第一線を走る研究者の方や、遠く離れた大学の同じ悩みを抱える博士課程の学生さん達と日本のアカデミック研究の現状といった真面目な話から、もし宇宙人が攻めて来たら研究者として地球防衛軍に参加しよう、というくだけた話まで本当に楽しい時間を共有することができました。国際学会という特別な環境で国内外問わず多くの方に出会えたことが私にとって大きな財産となりました。この経験を通して、たとえ不安や心配があったとしても、まず行動してみることの大切さを身に染みて感じました。今後も出会えた方々とのご縁を大切に、研究者として、人として、精進していこうと思います。
 最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった、日本発生生物学会並びに関係者の皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
2014.10.27

夏季WS2014 参加報告書 石橋朋樹(大阪大学)

大阪大学大学院 理学研究科 生物科学専攻
細胞生物学研究室 博士前期課程1年
石橋朋樹
"なんだか面白そうなことにはひとまず首を突っ込んでみる"という性質ですので,今回,浅虫臨海実験所にて行われる夏季シンポジウムの話を聞いたときには,直ちに参加申し込みをしました. 浅虫の気持ちのよい気候のなか,想像以上の楽しい時間を過ごすことができました.

今回の私の発表では,懇親会で話の種にして頂けるほどに多くのコメントを頂戴しました.頂いたコメントは,今後どのような実験の計画を立て,どのような哲学を持っていくべきかという示唆に富むものであると共に,自分の考察の浅さを実感させるものでもありました.怒涛のごときディスカッションに対して,的確な返答をできなかったことはとても口惜しい思いをしましたが,もっと実験をして考察を重ねて,いつかあっと驚かせる結果を持参してやる,と研究に対しての気持ちを新たにするモチベーションにもなりました.

また,夏季シンポジウムでの口頭発表が,私にとって大学外初の口頭発表でしたので,自分の発表への"批評のストック"を持っていなかった私としては,数多く頂いた鋭いご指摘のすべてが,今後の自分の発表を改善していく良い指針となりました.

単純なディスカッションだけでなく,志の高い参加者の方々や,普段なかなか話すことのできないパネリストの先生方と垣根なく交流できたことも,大変に有意義な経験となりました.発表内容はもちろん,発生学の面白さについて濃厚な議論をさせて頂いたことは,自分自身の現在,将来を見直す良い契機となりました.

最後になりましたが,今回の企画を運営して下さった先生がた,および浅虫臨海実験所の職員の皆さまに心より感謝を申し上げます.シンポジウム最終日に,まだ自分は修士1年だから少なくともあと2回は参加できるな...と皮算用するほどに楽しいシンポジウムでした.本当にありがとうございました.また,参加にあたり,旅費支援を頂きました.こちらも,重ねてお礼申し上げます.