2022.12.26

NGS発生生物学現場の会2022 参加報告書 Leo Sylvia(東京工業大学)

東京工業大学 生命理工学院 博士課程
Leo Sylvia
I attended this symposium with many questions: How do I best present my RNA-sequencing data as figures? Should I present them as normalized data, or as raw read counts? How do I approach such a huge dataset and how and where do I start to analyse such data?
Throughout the two days of presentations by both fellow graduate students and established professors, I was able to gain much valuable insight on these topics, as well as developing new points of view on the new cutting-edge sequencing methods that were previously not even on my radar. Relatively novel techniques such as ATAC-sequencing and spatial transcriptomics were applied to various developmental models such as zebrafish, medaka and mice. Despite similar sequencing methods being applied to the same model organism, application methods, experimental designs and experimental approaches varied and made every presentation interesting and full of learning points. The various approaches applied to experimental designs really broadened my horizons, and I was also able to gain more understanding on how to best present my own data depending on the situation and specific information to be conveyed. Seeing how several researchers were able to multiplex their experimental designs was also a big learning point for me.
The world café on the first day was also immensely helpful. Being able to listen in to discussions between researchers brought up points I would not have even noticed, and I was also able to ask direct questions to experts and given the appropriate advice. Overall, this symposium was extremely fruitful, and I am thankful to have been given the chance to attend. I would not hesitate to say that it would help improve my own research as well.
2022.12.21

おすすめの教科書・書籍6〜10

発生生物学および関連分野の知識を学ぶのにおすすめの教科書を紹介します。

6. 長田直樹 著「進化で読み解くバイオインフォマティクス入門
一言で言うと、明日から始めない人のためのバイオインフォマティクス入門。手法の生物学的背景から丁寧に解説。進化を題材として取り上げており、発生生物学研究者の興味にも合いそうです。明日から始めたい人のためのバイオインフォのハンズオン本は坊農秀雅さんらが編集されたものなど良書がいくつもありますが、手法の背景からじっくり学べる本書はそれらと相補的な内容です(杉村薫
https://www.amazon.co.jp/%E5%9D%8A%E8%BE%B2%E7%A7%80%E9%9B%85/e/B078N6R6P8

7. Nicholas. I. Fisher 著「Statistical Analysis of Circular Data」 
Arthur Pewsey, Markus Neuhäuser, and Graeme D Ruxton 著「Circular Statistics in R」 
角度データの平均を計算するのに単に足して割っていませんか?角度データの分散って?形態データを多く取り扱う発生生物学。10年前と比較して、角度統計は普及した感もありますが、学部生や修士学生で馴染みがなければ、一読の価値ありです。(杉村薫

8. Scott F. Gilbert, and David Epel 著「生態進化発生学―エコ‐エボ‐デボの夜明け」 
共生とエピジェネティックスをキーワードにして数多くの文献を読み込んだ著者が多彩な実例をもとにこれからの生物学、発生学、進化学を論ずる。生物は孤立した存在ではなく環境と、他の生物とが合わさったファミリーとして生存と発展を遂げているのだ。(林茂生

9. Lewis Wolpert, and Cheryll Tickle著「Wolpert発生生物学」 
S. Glibertの“Developmental Biology”と双璧をなす発生学の定番教科書。主著者のL. Wolpert博士は肢芽を用いて様々な概念を提案した発生学者。実験発生学的な視点で、動物の発生をわかりやすく解説。現在第6版で、4版は武田洋幸・田村宏治監訳の日本語版もある。講義用に図の電子版が公開されているのは教員にとってうれしい。(武田洋幸)

10. 佐藤純 著「いますぐ始める数理生命科学 - MATLABプログラミングからシミュレーションまで -」 
多くの数理生物学の書籍において、数式をどうやってコンピューター上で扱えば良いのか、どうやってシミュレーションしたら良いのか、ほとんど説明されていないことが多いと思います。この本では全くの初心者がプログラミングの初歩から始めて、具体的な生命現象の数理モデルを構築し、シミュレーションを行うことを目標としており、生物系の学生の方々に最適だと思います。(佐藤純
実験発生生物学と数理生物学の融合研究を精力的に進めている著者による数理生命科学の入門書。前半で、Matlabによるプログラミングの初歩的な内容を学び、後半で、Matlabを用いて、さまざまな生命現象のモデルを数値計算するという構成になっています。細胞分化やモルフォゲンなど、発生生物学者にとって馴染み深いトピックが取り上げられており、初学者が直感的に理解しやすいように工夫されています。(杉村薫


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2022.12.21

倉谷滋のお勧め<まとめ第3弾>

倉谷滋先生お勧めのクラッシック論文を紹介します。

21. Goodrich, E. S. (1915). Memoirs: The Chorda Tympani and Middle Ear in Reptiles, Birds, and Mammals. Journal of Cell Science 242, 137–160.
これは典型的な比較形態学の論文。だが、発生パターンの違いが重視されている。動物によってこんなにパターンが違うのかと認識させてくれる。

22. Graham, A., Koentges, G. & Lumsden, A. (1996). Neural Crest Apoptosis and the Establishment of Craniofacial Pattern: An Honorable Death. Molecular and Cellular Neuroscience 8, 76-83.
菱脳の分節構造のうち、第3,第5のロンボメアが神経堤細胞を発するのかどうか、90年代、これがニワトリ胚発生研究の領域で大問題になったことがある。なぜだろうか。科学論争の本質を知るためにも興味深い。

23. Hogan, B. L. M., Thaller, C. & Eichele, G. (1992). Evidence that Hensen's node is a site of retinoic acid synthesis.Nature 359, 237–241.
この論文が書かれた一部始終を私はそばで見ていたが、そのときの経験がのちに非常に役に立った。90年代のいわゆる「発生生物学の黄金時代」を象徴するような心意気の論文と言えるかも知れない。

24. Jeffery, W. R., Strickler, A. G. & Yamamoto, Y. (2004). Migratory neural crest-like cells form body pigmentation in a urochordate embryo. Nature 431, 696–699.
Gans & Northcuttによる「New Headセオリー」は、神経堤とプラコードが脊椎動物を定義すると述べ、結果、神経堤の起原を極める研究が脊椎動物の起源を語ると認識された。その一方でその前駆体がホヤに存在するという研究が相次いだ。その最初のひとつがこれ。

25. Jollie, M. (1981). Segment Theory and the Homologizing of Cranial Bones.The American Naturalist 118, 785-802.
脊椎動物頭蓋要素の発生起源は動物によって違うのか。その背景にどのような予測があったのか。古典的な比較形態学的コンセプトの終着点を示す論文のひとつだが、それが正しいというわけではない。

26. Kuntz, A. (1910). The development of the sympathetic nervous system in mammals. Journal of Comparative Neurology and Psychology 20, 211-258.
一言でいうとKuntzによる一連の論文は、組織発生学的に末梢神経系の発生を推論したもので、ほぼ正しくそれらが神経堤に由来することを見抜いている。実験発生学が明らかにしたのは、彼の観察眼の正しさだったのかも知れない。

27. Langille, R.M. & Hall, B. K. (1988). Role of the neural crest in development of the trabeculae and branchial arches in embryonic sea lamprey, Petromyzon marinus (L). Development 102, 301–310.
ヤツメウナギ幼生の軟骨頭蓋の一部が神経堤に由来すると述べた論文。今にして思うと、これは進化発生学が勃興する前になされたユニークな試みだった。が、この動物の梁軟骨はいまでは中胚葉由来とされている。

28. Le Lièvre, C. S. (1978). Participation of neural crest-derived cells in the genesis of the skull in birds. Development 47, 17–37.
鳥類胚の頭蓋の由来については1993年のCouly et al.が引かれることが多いが、ここにあげたLe Lièvreの知見がNodenの見解に近いことはあらためて注目すべきだろう。この論文の中のmesectodermとは、ectomesenchymeのこと。

29. Lufkin, T., Mark, M., Hart, C. P., Dollé, P., LeMeur, M. & Chambon P. (1992). Homeotic transformation of the occipital bones of the skull by ectopic expression of a homeobox gene. Nature 359, 835–841.
Hox遺伝子のKO実験が興味深い表現型をもたらしていた真っ盛りの論文。ある意味、典型例と言える。脊椎動物頭蓋のうちでも後頭骨はもともと椎骨であったものが変形して頭蓋に二次的に組み込まれたものとされる。進化とメタモルフォーゼを学ぶのに最適。

30. Mallatt, J. (1984). Early vertebrate evolution: pharyngeal structure and the origin of gnathostomes. Journal of Zoology 204, 169-183.
ヤツメウナギの鰓葉は軟骨支柱の内側にあり、サメのものは外側に結合している。ならば鰓弓骨格は両者において相同ではない?あるいは、神経堤細胞が移動と分布を変えたのか?相同性を発生学的に読み解く第1歩としてお奨め。

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2022.12.16

NGS発生生物学現場の会2022 参加報告書 氏部浩太(青山学院大学)

青山学院大学 理工学研究科 博士後期課程 1 年
氏部浩太
今回、初めて本会のような合宿形式での会に参加しました。研究者としてこの業界に入ってから 4 年弱経ちましたが、コロナの影響によりその 4 年のうち 2 年間はオンラインでの学会や懇親会にしか参加したことがありませんでした。そのため、顔を合わせて発表を聞いたり議論したりする機会がなかなかなく、学生間のネットワーキングの機会も限られていたことから横との繋がりがありませんでした。今年になってようやくコロナ感染の拡大が多少収まりつつあるため、対面形式での学会が増えてきました。それにより、多少ながらコミュニティーを築くことができつつありました。その絶好のタイミングに「NGS 発生生物学現場の会 2022」が開催されると聞き、迷うことなく参加をすることに決めました。参加前はどのような方々いるのか硬い感じの会なのかなど不安なところがありました。実際に参加をしてみると、参加者の中には NGS に触れていないビギナーの方から上級者の方々まで幅広くいました。私は NGS に触れてはきた中堅レベルであったため、学んだり多少教えたりする立ち位置にあり様々な点でとても私自身にとってプラスになる会でした。講演の中には企業の方がいらっしゃり、企業側はどのようなことを研究者に求めているのか、企業での研究はどう進めていくのかなど普段では聞くことのできない貴重なお話を聞くことができました。また、参加者の方々と一緒にいる時間が長い分、通常の学会より議論等ができる時間を長くとることができました。それにより、普段の学会では議論できていなかった事細かいところまで議論することができ、自身の研究に関してもっと勉強や知識をつけなければならないと再度実感させてもらいました。また、修士や博士の学生だけでなく他大学・研究機関の先生方とのコミュニティーも多少なりとも築くことができました。さらに、NGS を扱われてきた先生や先輩研究者の方々がはじめて NGS に触れる際に、どこで苦労をしてきたのかなどこれまでのキャリアのお話を聞くことができとても有意義な時間を過ごすことができました。これらの点で、合宿形式の会ならではの雰囲気やコミュニティー作りを経験することができるとても良い会であり、参加して本当に良かったです。来年度以降にもこのような会が開催されるようであれば、是非とも参加したいです。
2022.12.16

NGS発生生物学現場の会2022 参加報告書 クォン スンジュン(九州大学)

九州大学 システム生命科学府 5年一貫制2年
クォン スンジュン(KWON SEUNG JUNE, 権 昇俊)
発生学会のニュースレターから「NGS発生生物学現場の会」が開催されることを知って、すぐ行きたいと思った。私はwetの実験も好きだが、バイオインフォマティクスの解析にも以前から興味を持っていて、Bulk RNA-Seqなどのデータ解析を行っている。しかし、dry解析については正規の教育を受けたことがなく、本やインターネットで独学してきたため、解析を行いながらも「このやり方で大丈夫かな」という不安を常に抱えていた。研究室内にNGS解析を行っている人は私一人で、質問や議論がしたくても、する人がいない。このような状況で、NGSを用いた研究を行っている研究者及び学生が集まり、各自のデータ解析手法や「悩み」を共有するというシンポジウムは、私にとってとても魅力的なイベントだった。メールが来たその日に申し込んだことをまだ覚えている。

二日間の短い期間だったが、本当に密度の濃い、有益な時間だったと思う。「自分はまだビギナーだから、色々聞きに行こう」という軽い気持ちで開催を楽しみにしていたのだが、実際行ってみたら、期待していた以上に楽しかった。5分間の参加者全員の研究紹介からワールドカフェと招待講演まで、全てが面白い時間だったが、一番好きだったのは一般発表の時間だった。全員の発表者の発表後に、見たことのないほどの活発な質疑応答の時間が、すごく楽しかった。私も、wet・dry両方初心者でありながら色々質問したのだが、私みたいな修士課程の学生から、経験豊富な先生まで、様々な分野の人がNGSで一つになって楽しく議論するところを、目の当たりにすることができた。また、コロナの影響で、大学院に進学してから研究室外で発表する機会が少なかったのだが、今回の一般発表が私にとって初めての学外発表になり、自身の研究について今まで気づいていなかった視点から、色々なアドバイスを受けることができた。最後に、同じ年代の学生からシニアの先生まで、交流会も含めてたくさんのお話ができてすごく楽しかった。お互いを「○○さん」と呼ぶことも、学生からして先生との距離が縮まることを実感することができた。

このような有益で面白いシンポジウムを開催してくださった、日本発生生物学会の関係者の皆様に感謝申し上げます。
2022.12.12

NGS発生生物学現場の会2022 参加報告書 眞鍋柊(東北大学)

東北大学大学院 医学系研究科 発生発達神経科学分野
眞鍋 柊
指導教員の先生が、私にこの研究会の存在を教えてくださった。その助教の先生はある学会での鹿島先生の美しい発表に感動し、その発表の最後に鹿島先生が宣伝されていた本研究会を私に強く推薦してくださった。神経発生に関する研究を行っており、かつRNA-Seqデータを用いていた私にとっては、「NGS」「発生生物学」と冠した本研究会は強く興味を引いた。さらに、現在所属の研究室でNGSデータを用いて研究を行っている学生が私を含め2人だけであったため、類似した研究を行っている同世代の学生と会って、研究の進捗や、さまざまな悩みを共有したいという気持ちがあり、本研究会に参加させていただくこととした。参加するにあたり、発生生物学会からの旅費支援を利用させていただくことができ、金銭的な心配はなかった。
実際に2日間、本研究会にて非常に充実した時間を過ごすことができたが、本研究会を有意義たらしめたのは、特にその「規模」によるものが大きかったと感じている。学生・若手研究者15名程度に対して、専門家の先生が10名程度もいらしたために、自分の口頭発表の際にもほとんどすべての先生に質問・コメントをいただくことができ、有益な情報を研究室に持ち帰ることができた。他の方々の口頭発表においても、時間を超過するほどの活発な議論が繰り広げられており、そのいずれもが今後の自分の研究の参考になる充実したものであった。またその規模ゆえに、交流会や昼食時などに、本研究会に参加されたほとんどすべての方とお話しさせていただくことができた。私が修士課程に進学して以来、新型コロナウイルスのまん延によりほとんどすべての学会等がオンラインで行われてきたため、今回、素晴らしい研究発表をする同世代の学生の活躍を知り、直接お話をさせていただけたことは非常に良い刺激となった。
まとめると、私は本研究会に参加することで、自分の研究の方向性に関して重要なアドバイスをいただき、同世代の学生の皆様の研究成果に刺激を受け、また悩みを共有することもできた。NGS発生生物学現場の会で過ごした2日間は非常に有意義な時間であった。最後に本会の開催にご尽力いただいた鹿島誠先生および発生生物学会の皆様に感謝申し上げます。
2022.12.12

NGS発生生物学現場の会2022 参加報告書 中村光希(岡山大学)

岡山大学環境生命科学研究科 博士後期課程1年
中村光希
私がこの研究会に参加した目的は、一つは自身の研究で行っているNGS解析で直面する課題を解決することでした。私はNGS解析に触れてまだ半年も経っておらず解析に必要な基礎知識が不足しており、解析が十分に進められない状況でした。また、もう一つは同年代の方々との交流を通してNGS解析に限らず研究の進め方や研究との向き合い方を知ることでした。今回、発生生物学会の会員ではなかったため参加するか迷っていました。しかし、研究会概要を拝見して今の自身がまさに必要としている研究会だと思い、参加を決めました。
研究会に参加して、参加者との交流や疑問の共有を通して様々な解析手法の理解やNGS解析に必要な知識だけでなくNGS解析を進める上での心得を学ぶことができました。
招待講演において、田崎 純一さんの講演では基礎研究の経験をどのように企業で社会に役立てることができるかを知る貴重な機会になりました。そして、企業ならではの考え方、研究の進め方も知ることができました。安齋 賢さんの講演ではスラウェシ島の多様なメダカのゲノム解読の話が興味深く、ゲノム解読の過程を詳細にお話いただき大変勉強になった。私は公開ゲノムデータを利用するばかりですがゲノムが解明されていない生物を解析することの面白さを知りました。尾崎遥さんの講演ではシングルセル解析や空間トランスクリプトームなどバイオインフォマティクスの最先端を知ることができました。情報解析が発生生物学の発展にいかに重要かを感じることができました。鹿島 誠さんの講演ではゼブラフィッシュの研究内容から他検体RNA-seqの魅力に触れることができました。さらにNGS解析を進める上での心得を学びました。
ワールドカフェでは参加者の方々にNGS解析で誰に相談してよいかわからないことなども気楽に質問でき、参加者とのつながりを作ることもできました。
一般発表では、私は発表しませんでしたが、NGSを用いた多種多様な研究内容を聞き、NGSが様々な場面で利用されていることを感じました。私は植物の研究をしているため、普段触れることの少ない哺乳類や魚類などの生物種の研究内容を聞くことができ、NGS解析以外にも知識を得ることができました。さらに質疑応答では、交流会やワールドカフェで参加者との交流がすでにあったため、気負わず積極的に質問でき、大変勉強になる一般発表でした。また、公開討論会ではマニアックな話題やデータの管理方法なども挙がり、非常に勉強になりました。
この研究会に参加して、NGS解析に対する疑問や理解不足な点を明らかにすることができました。また、会員ではなかった発生生物学会での研究会であった点が参加前には少し不安もありましたが、実際に参加して、NGS解析の基礎の話から特殊な解析方法まで幅広く学ぶことができただけでなく、同年代の方々との交流や、様々な面白い研究そして今後の自身の研究に生かせるお話を聞くことができました。誰もが簡単にNGS解析を始められる今だからこそ、そのうちの一人としてNGS解析に対する悩みを抱えていた私にとってこの研究会は大変貴重な機会になりました。最後に、このような機会をくださった日本発生生物学会、NGS発生生物学現場の会2022の関係者の皆様に心から感謝申し上げます。
2022.12.12

NGS発生生物学現場の会2022 参加報告書 金子杏美(筑波大学)

筑波大学グローバル教育院ヒューマニクス学位プログラム2年
金子杏美
私は、副指導教員である尾崎遼先生がNGS発生生物現場の会で講演をされるということで、発生生物学会には所属していないのですが、この会の存在を知りました。wetの研究が主で、バイオインフォマティクスに関しては勉強中の身でしたので、考え方やできることなどを学べれば、と思い参加させていただきました。
実際に参加してみて、自分とは違うモデル生物を利用している人や、発生生物特有のトランスクリプトームを明らかにしている実験の紹介など、とても刺激になりました。一般発表では、私の研究分野は、参加者の方々とは違う睡眠という分野だったため、わかりやすく説明するというような良い練習になりました。また、知識の豊富な方々から、自分ではどうにもできなかったサンプリングによる傾向が補正できるはずだ、というようなことや、そもそもChromiumを利用したsnRNA-seqでは目的の細胞を十分量得ることは難しいため実験手法を変えた方がいいのではないか、といったこと、組織学的にトランスクリプトームを得られる新規手法についても教えていただき、研究室に持ち帰って検討したいと考えています。また、中身がブラックボックスのような気持ちで行っていた解析が、先生方の開設によって明らかになったり、論文をpublishする際にはきちんと明示しなければいけない数字などについても明確になったりと、今後のモチベーションに繋がりました。
また、先生方の講演も大変参考になりました。とくに、企業研究者の田崎さんの講演は、今後、就職かアカデミアの道か、を考える上でとても勉強になりました。大学では、動物実験はたくさん行われていますが、企業特有の動物実験を減らさなければいけない、というような事情は、マウスを利用した実験を主に行なっている自分としては、企業に就職する場合は動物種を変えなければいけないのかなど、将来を考えるきっかけとなりました。さらに、鹿島先生のプレゼンのプログラミング初学者へのアドバイスで、時間と労力を削るための手間は惜しむな、といったことをおっしゃっており、私自身、出力されたリストなどを、ついエクセルでいじりたくなってしまうので、肝に銘じたいと思いました。
 この度は、このような、初学者のための会を開催していただき、進歩の早いNGS分野の様々な技術や解析法・活用法について情報交換・議論する場を用意していただきありがとうございました。また、機会がありましたら是非参加させていただきたいです。
2022.12.12

岡田節人基金 フランス海外派遣報告書 矢ヶ崎怜(京都大学)

京都大学大学院 理学研究科
矢ヶ崎怜(D3)
この度、岡田節人基金若手研究者海外派遣助成にご採択いただき、フランス・ストラスブールで行われた第3回日仏合同ミーティングに参加いたしました。コロナウイルスの流行のため、これまで海外の学会に参加する機会に恵まれず、今回が初めての海外学会となりました。ホテル予約やパリからストラスブールに向かうための高速鉄道の予約など、行く前からドキドキではありましたが、日本から参加するメンバーでのslackを立ち上げていただき情報を共有していただいたため、滞りなく行うことができました。

ストラスブールはパリから高速鉄道で2~3時間ほどのところにあり、心配とは裏腹に、とても治安のよい街でした。4日間ホテルからストラスブール大学に歩いて向かい、なんとなく海外での研究生活も想像できたような気がします。

今回のミーティングでは、私は蠕動運動に特化した腸収縮性オルガノイドの解析についてポスター発表を行いました。発表時間は2時間に設定されていましたが、英語で説明、ディスカッションをしている間にあっという間に終わっていました。まだまだ足らない部分は多いですが、英語で相手の言ったことを理解し、答えられたというのは自信につながりました。今後も臆することなく英語を話し、もっと伝えたいことが適切に伝えられるようにしていきたいと思います。また、一緒に日本から参加した先生方にもたくさん研究を聞いていただき、有意義な時間を過ごすことができました。いただいたアドバイスを今後の研究に生かしていきたいと思います。

その他に、このミーティングで参加して良かったことを3つ挙げたいと思います。
1つ目は、1つの部屋で口頭発表を聞くという形をとっていたということです。それにより、自分の研究に近いものから、あまり聞く機会のなかった分野の研究など、発生に関する幅広い研究を聞くことができました。馴染みのない分野の発表は自身の知識の幅の狭さを知るよいきっかけでした。

2つ目は、数時間に1回、コーヒーブレイクがあったことです。この時間を有効に活用し、発表者の方のところへ行って質問したり、色々な方の研究を聞いたりすることができました。また、ミーティング終了の翌日、コーヒーブレイクで知り合ったフランスの学生がパリを案内してくれました。生物学という共通点があるからこそ、仲良くなれたように感じています。

3つ目は、笹川財団からの助成をいただき、参加学生の多くが同じホテルに泊まっていたことです。日本の学会であればなかなか話しかける機会というのはありませんが、慣れない海外で夜遅くまで学会もあるため、みんなで一緒に帰ろうと声を掛け合って生活しました。夜には先生方と一緒にご飯に行かせていただき、山あり谷ありの研究人生を伺いながら、楽しい時間を過ごすことができました。これからも学会等で会うことができると思いますので、みんなに負けないように頑張りたいと思っています。

最後になりましたが、様々なご支援をいただきました、林先生をはじめ多くの先生方にこの場を借りて感謝申し上げます。
2022.12.12

岡田節人基金 ISDB海外派遣報告書 河西通(東京工業大学)

東京工業大学 生命理工学院
河西通(助教)
この度は岡田節人基金からご支援をいただき、2022年10月16日から20日にわたってInternational Society of Developmental Biology(ISDB)の主催する19th International Congress of Developmental Biologyに参加しました。

ISDBは1968年に発足した国際組織で、Cells & Development(2020年まではMechanisms of Development)やGene Expression Patternsの発行母体として我々にも馴染みがあります。ISDBはこれまで、日本のJSDBやアメリカのSDBをはじめとした各国の発生生物学会同士の交流を促進するため、およそ4年に1度の周期で大会を開催してきました。また大会中にはRoss G. Harrison Awardの授与式も執り行われます。1989年には本基金の設立者である岡田節人先生が同賞を授与されました。大会の開催地はこれまでアジア・オセアニア、アメリカ、ヨーロッパの各地を巡っており、今年はポルトガルの南岸に位置するリゾート地・アルガルヴェでした。白亜のホテルや住宅が立ち並び、とてもリラックスした雰囲気で大会に臨むことができました。
ISDBへの参加を申し込んだ6月当初、私は国外の研究者と対面でディスカッションできることへの大きな期待と、未だ尾を引くコロナ感染症に対する不安の両方を抱えていました。罹患そのものに対する恐れもありますが、学会滞在中のわずかな期間で万一感染してしまうと帰国が許可されず、数週間にわたりポルトガルのホテルに足止めされてしまう可能性があったからです。ただその後9月になり、帰国時のPCR検査による入国規制は緩和され、帰国が滞る可能性はほぼなくなりました。とはいえ、ポルトガルでのコロナの流行状況やマスクの着用状況はわからないままです。全世界から人が集まる国際学会で、しかも4年周期のところが今年は1年遅れの開催となり、一層密になるのではないかと危惧して、せめてもの感染予防グッズとしてN95マスクを買い溜め、大会当日に備えました。
いざ大会が始まると、現地には約600人もの参加者が集まり、広い学会会場のあちこちで朝から晩まで議論が活発に行われたため、出国まで抱いていたコロナへの不安をよそに、とても刺激的な5日間を過ごせました。

大会の一番の収穫はなんと言っても、面白い仕事をする海外研究者や、普段読んでいる論文の著者に直接会えたことでした。論文は十分な推敲を経て理性的な筆致で書かれますが、著者本人の人となりや情熱、また研究の背景にある考えは対面でこそ伝わってくるものです。今回Ross G. Harrison Awardを受賞されたカリフォルニア工科大学のMarianne Bronner博士は、記念講演としてご自身による神経堤細胞研究の経緯を概説されました。講演の中で、氏の研究展開に対する静かな興奮、そして理路整然と講演される様子に、大袈裟に聞こえるかもしれませんが私は感動しながら拝聴していました。エキサイティングな研究発表をされるかたは他にもたくさんいらっしゃり、うち何人かとは実際に顔を見ながらディスカッションでき、知り合いになることができました。
また、各国から参加者を募る国際学会ゆえに、世界の発生学研究の潮流を知ることができた点も大きな収穫です。なかでも、大会初日に行われたオルガノイドにまつわる講演セッションは興味深く拝聴しました。2008年に理研の笹井芳樹博士のグループが大脳皮質オルガノイドを報告して以来、さまざまな臓器のin vitro作成法開発や疾患の作用機序解明など、オルガノイドはおもに医学的方面で大きな進歩を遂げてきた印象がありました。今回の大会ではそのオルガノイドを道具として用いて基礎生物学的な問いに迫るエキサイティングな研究がいくつもあり、発生生物学の流れの変化を体感しました。

ポスターセッションも大賑わいで、ありがたいことに私は本大会でポスター賞をいただくことができました。今回、ポスター筒をロストバゲージすることがないよう、初めて布ポスターを使用したのですが、布地にも共焦点顕微鏡の蛍光画像が精細に映ること、持ち運びがとても楽なことに驚きました。国際学会でポスター発表される方にはお勧めします。
当初懸念していたコロナについてですが、会期中もやはり会場内外で猛威を振るっていました。私が個人的にディスカッションしたいと思っていた研究者を含め何人かの発表者がオンライン参加や欠席となったほか、私自身もポスターセッションか、あるいは円卓を囲む晩餐会で感染してしまい、帰国直後から1週間の自宅療養を余儀なくされました。いまなお感染対策と研究交流の両立は想像以上に難しい、と身をもって実感した次第です。

今回のISDB大会を通じて、国際学会でしか味わえないアカデミックな興奮を経験することできました。この経験を日々の研究に還元し、よりよい科学をつくっていければと思っています。渡航を支援してくださいました日本発生生物学会関係者の皆様に深く感謝申し上げます。