2026.01.06
海外便り№19 鹿谷有由希さん (ヴィルフィランシュ海洋研究所(IMEV))(現・兵庫県立大学)
鹿谷有由希
Postdoctoral fellow, ヴィルフィランシュ海洋研究所(IMEV)(現・兵庫県立大学)
はじめまして。フランスのニース近郊にあるヴィルフィランシュ海洋研究所(IMEV)の発生生物学ユニット(LBDV)にてポスドクをしておりました、鹿谷有由希と申します。約2年という短い滞在期間ではありましたが、私の経験が海外留学を考える際の参考に少しでもなれば嬉しく思います。
海外ポスドクまでの経緯
海外留学を考える際、どうやってラボを見つけて、どうやって受け入れてもらったのか、が気になるポイントの一つかと思います。ただ、この点は人それぞれかと思いますので、こんなパターンの人もいるんだな、とお読みいただければと思います。
私の場合、博士号取得後は海外で研究をしてみたい、と漠然と思っていたものの、恥ずかしながら何か積極的に行動をするわけでもなく、ただとりあえず英語の勉強をしていたくらいでした。そもそも英語に強い苦手意識のあった私は、海外ポスドクなんて夢のまた夢とどこかで思いながら、それでも海外に行ってみたいと口にしていたことが、回り回って自分の背中を押してくれたように思います。
結果的に海外でポスドクをすることができたのは、いくつもの幸運が重なったおかげでした。
中でも最大の幸運は、指導教官である高橋淑子先生(京都大学)のご縁です。私は高橋先生のもとで、ニワトリ胚を用いた胚発生過程における腸管運動の確立メカニズムについての研究で博士号を取得しました。もともと器官形成全般に興味があるのですが、腸管の発生は想像以上に面白く、博士号取得後はより進化的な観点から腸管運動の確立メカニズムや腸管の形態形成メカニズムを研究したいと考え、無脊椎動物をモデルとした研究を行うことのできるラボを探していました。そのことを高橋先生にご相談したところ、私が海外に行ってみたいと言っていたことを覚えていてくださっていたこともあり、LBDVのCnidarian developmental mechanismsチームのチームリーダーとしてクラゲClytia hemisphaericaを用いた研究をされている百瀬剛先生をご紹介いただきました。さらに幸運なことに、百瀬先生の方でも、Clytiaのポリプ形成時に見られる運動について新規のプロジェクトを立ち上げたいと考えておられたところでした。Clytiaのポリプは体のほとんどが腸管のようなもので、まさに私の興味であるより原始的な腸管の形態形成メカニズムの研究ができるではないか、とポスドクとしてプロジェクトに参加したい旨をお伝えしたところ、フェローシップを獲得できたら、という条件で受入を許可していただきました。
ただ、準備の悪かった私は、その時点ですでに卒業年度の7月を過ぎていたため海外学振の申請に間に合わず、上原記念生命科学財団、東洋紡バイオテクノロジー研究財団、内藤記念科学振興財団の海外留学助成に応募しました。結果的に東洋紡バイオテクノロジー研究財団から援助をいただくことができ、11月頃になってようやく卒業後の行き先が決まった、というような慌ただしい一年でした。
LBDV(Le Laboratoire de Biologie du Développement de Villefranche-sur-mer)について
LBDVは、パリから飛行機で1時間ほどのところにあるニース市の、さらに隣にあるヴィルフランシュ=シュル=メールという小さな町にある海洋研究所です。ヴィルフランシュは聞いたことがなくても、南仏のコート・ダジュール(紺碧海岸)という言葉に聞き覚えがある方は多いのではないでしょうか。リゾート地として有名なコート・ダジュールの真っ只中に位置するヴィルフランシュは、真っ青な地中海に面した美しい港町です。LBDVもすぐ裏手が浜になっており、研究所所有の船で採集ができたり、夏には海水浴を楽しんだりできます。
LBDVでは、クラゲ、ウニ、ホヤなど海産無脊椎動物を用いた発生生物学・進化発生生物学の研究が行われています。LBDVはCNRS(フランス国立科学研究センター)とソルボンヌ大学によって共同運営されていますが、研究者はフランス国内に限らず、ヨーロッパを中心に様々な国から集まっています。加えて、特に博士課程の学生やポスドクは研究室間の交流も盛んで、様々な文化・研究が身近にあることはとても刺激的でした。昼食後のコーヒータイムでは、世間話からディスカッションまで、様々な話題で盛り上がります。LBDVは良い意味でのんびりとしていて、のびのびと研究に打ち込むことのできる環境だと思います。もしご興味のある方は、ぜひホームページをご覧ください。
https://lbdv.imev-mer.fr/en/
ニースでの生活について
「フランス留学」で調べると、おそらくほとんどがパリの情報かと思います。そこでせっかくの機会ですので、ニースでの生活を簡単にご紹介したいと思います。
先にも書いたように、ニースは地中海に面したリゾート地です。海外旅行のパンフレット等で目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。夏の日差しは強烈ですが、日本と違って湿度が低いのでどことなく爽やかですし、もともとニースはヨーロッパの王侯貴族の避寒地として発展した街ですので、冬は温暖で非常に過ごしやすいです。そのせいか街全体も明るくおおらかで、治安はとても良いです。私はニースからトラムとバスで研究所に通っていましたが、不安を感じるようなことは一度もありませんでした。英語はパリと比べると通じませんが、渡航前に半年間フランス語教室に通っただけ、という私でもなんとかなったので、非英語圏への渡航を考えている方もそこまで心配しなくて大丈夫だと思います。日常生活においては、元気な挨拶と笑顔があれば乗り切れます(と思います)。
ただ、観光地であるがゆえに、アパート探しは難航しました。私が渡航したのはバカンスシーズン直前の6月だったのですが、多くのアパートはすでにバカンス客に借りられてしまっており、ようやくアパートが見つかったのは3ヶ月後のバカンスシーズンが終わった9月のことでした。フランスの場合は不動産会社経由ではなく、個人間で部屋を貸し借りすることの方が多いそうです。私が借りた部屋も、LBDVの事務の方が学生向けの賃貸として個人で所有していたもので、ここでも頼りになるのは人の縁だと痛感しました。ちなみに自分のアパートが見つかるまでは、バカンスやインターンなどで長期で留守にするLBDVメンバーの家に数週間ずつ転がり込ませていただき、渡仏早々、人の温かさに大いに助けられました。
ニースの物価はやはり高めですが、農業大国らしく食材は手頃な値段で手に入ります。ですので基本的に自炊をしていたのですが、ニースに来て驚いたのはピザ屋の多さです。実はイタリアまで電車で1時間ちょっとの距離にあるニースは、食事も含めてイタリア文化の影響が強く残っていて、フランス語の次によく見かけるのはイタリア語というくらいでした。パリとはまた一味違った文化が楽しめると思います。
フランスへの渡航を考えていらっしゃる方に向けて
フランスにポスドクとして渡航する場合、Passeport talent-Chercheur(研究者ビザ)を取得することになると思います。このビザの取得には受入機関からのConvention d’accueil(受入承諾書)が必須なのですが、Convention d’accueilを発行してもらうための条件は機関によって様々ですので、この条件は事前によく確認しておいた方が良いかと思います。
また、フランスは手続きにとにかく時間がかかるので、何事も十分過ぎるほど余裕を見て準備をした方が良いです。そのうえ、連絡が来ないなと思っていたら忘れられていた、ということも珍しくないので、大事なことは念を入れて確認するのがおすすめです。
さいごに
海外留学を終えて思うのは、ありきたりではありますが、少しでも海外での研究に興味があるのならぜひ挑戦してみた方がよい、ということです。今振り返れば、楽しかったことはもちろん、もっとこうすれば良かったと反省することもたくさんありますが、少なくとも挑戦したという事実は私の中で一つの自信になりましたし、海外の研究者を身近に感じるきっかけにもなりました。もし今、海外留学のチャンスがあって、迷っている方がいるのであれば、ぜひ挑戦することをおすすめします。皆さまの海外留学が実り多いものとなるよう、心より応援しております。
最後になりましたが、執筆の機会をいただきました入江直樹先生に深く御礼申し上げます。
ニースの紺碧海岸(通称 ”天使の湾”)
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ヴィルフランシュ=シュル=メールの街(右手前)と地中海
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研究所の中庭で開催された感謝祭のパーティー。手前はターキーを切り分けているところ。
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ニースのクリスマスマーケット。移動遊園地がやってきて賑やかです。
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2025.12.24
日独合同ミーティング2025 参加報告書 ⾹川賢慧(兵庫県立大学)
兵庫県立大学
⾹川賢慧
2025年9⽉25⽇から27⽇にかけてドイツで開催された⽇本発⽣⽣物学会(JSDB)とドイツ発⽣⽣物学会(GfE)による⽇独若⼿合同ミーティングに参加する機会を頂きました。今回の渡航では⽇本発生生物学会より⽀援を賜り、このような貴重な機会をいただけたことに深く感謝申し上げます。
私にとって今回の参加は、初めての海外渡航であり、さらに初めての英語による⼝頭発表でもありました。そのため応募を決めた段階では⼤きな不安があり、英語への⾃信のなさに加え、⾶⾏機に無事搭乗できるかどうかといった基本的な点さえ⼼配していました。しかし、研究者としてさまざまな経験を積みたいという思いが強く、この機会を逃すわけにはいかないと覚悟を決めて参加することにいたしました。
20時間弱のフライトと5時間の電⾞移動という想像以上に過酷な移動を経て、ハイデルベルクで開催されたDAY0のワークショップから参加させていただきました。到着し際にはやっと着いたという安堵感と町並みの美しさから緊張は和らぎ、むしろワクワクしていたことを覚えています。翌⽇は、DAY1からDAY3の開催地であるギュンツブルクのReisenburg城までGfEメンバー⽅々の⾞に同乗させてもらい、⾞内での会話や現地のスーパーマーケットでの買い物を楽しみながら移動しました。DAY1に⾏われた私の⼝頭発表は、⽇本⼈参加者のトップバッターで⾮常に緊張しましたが、若⼿研究者を中⼼としたミーティングだったこともあり過度なプレッシャーを感じることなく落ち着いて臨むことができました。発表後の質疑応答には英語で答えることに苦戦しながらも、なんとか⾃分が伝えたい内容は概ね表現できたと思います。
また、学会期間中には毎⾷豪華な⾷事を堪能することができ、⾷事の場を通じて参加者の⽅々との交流を深めることができました。研究だけでなく、⽂化や⽣活の違いについても話題にすることで国際的なつながりを持てたことは、本ミーティングの⼤きな魅⼒であったと思います。
⼀⽅で、初⽇には宿泊先のルームキーを紛失してしまい、GfEメンバーや⽇本⼈参加者の皆様には多⼤なるご迷惑をおかけいたしました。このようなトラブルを含め、本ミーティングへの参加は不安の多い挑戦ではございましたが、周りの⽅々の温かいサポートのもと乗り越えることができ、わずかながら着実な⾃信となりました。今回得られた経験を今後の研究活動に活かし、さらに成⻑できるよう努めてまいります。最後に、本ミーティング参加を⽀えてくださいました⽇本発生生物学会をはじめ、関係者の皆様に⼼より御礼申し上げます。
2025.12.24
日独合同ミーティング2025 参加報告書 寺西亜生(金沢大学)
金沢大学
寺西亜生
この度、9月24日から27日にかけてドイツで開催された日独合同若手ミーティングに参加させていただきました。初日にハイデルベルクでのワークショップに参加し、続いてギュンツブルグで行われたGfE School 2025に参加しました。私にとってヨーロッパでの学会参加は初めてで、見るもの、聞くもの、体験するもの全てが刺激的で忘れられない経験となりました。ミーティングの様子と、現地の先生や学生たちとの交流を通じて感じたことを書きたいと思います。
初日は、ハイデルベルク大学のCentre for Organismal Study (COS)で開催されたワークショップでした。乗り継ぎを含めて計18時間ほどのフライトの後、ミュンヘンに到着し、そこからさらにハイデルベルクの会場まで高速鉄道で5時間というタフなスケジュールでした。長時間の移動と時差ボケ、そして想像以上のドイツの秋の寒さに、会場に着く頃にはすっかり疲れ果て、眠気に襲われていました。しかし、会の始まりから目の覚める出来事がありました。開会の挨拶が終わった瞬間、ドイツ側の参加者たちが一斉に拳で机を「ゴンゴン」と叩き始めたのです。聞けば、拍手の代わりに机を叩くドイツの文化だそうです。その音を聞いて、外国で学会に参加しているという実感が沸き上がり、身が引き締まりました。発表ではオルガノイドからDNAバーコーディングによる系譜解析まで、発生生物学における幅広い手法を学ぶことができました。発表後には、研究施設の見学ツアーがあり、特に印象に残ったのはメダカの飼育施設です。COSではメダカ研究が盛んで、巨大な施設に多数のメダカたちが飼育されていました。魚の自動給餌器なるものを初めて目にして驚きましたが、それ以上に心に残ったのは、泳いでいるメダカを指さしながら愛おしそうに語っている先生の姿でした。研究への熱い情熱に引き込まれ、私たちも楽しくお話を伺うことができました。
翌日からは、GfE Schoolに参加するため、ハイデルベルクから車で3時間ほどの所にあるギュンツブルグという小さな町へ移動しました。会場となったのはSchloss Reisensburgという町はずれの丘に佇む石造りの古城です。塔の上からは付近をゆったりと流れるドナウ川を眺めることができました。ミーティングの参加者が40人程度と小規模だったこともあり、落ち着いた雰囲気の中で和やかな3日間を過ごすことができました。
ミーティングのテーマは"Lineages: Revealing How Cells Make Embryos and Tissues"。脳や四肢の発生とその細胞系譜、発生過程における上皮のメカニクスと進化、発生胚に対する深層学習を用いた画像解析手法など、多岐にわたる興味深い研究が紹介されました。全体を通して興味深かったのは演題の約4分の1が植物に関する研究だったことです。普段参加する学会では植物の研究に触れる機会が少ないため、新鮮な思いでした。もう一点印象的だったのは、各セッションの座長を学生が務めていたことです。特に質疑応答を堂々とさばく姿からは彼らの高い主体性を感じることができました。私は2日目に、上皮組織の力学特性とその制御メカニズムをテーマに口頭発表を行いました。ありがたいことに多くの方に関心を持っていただき、発表後のコーヒーブレイクでは、実験系の詳細な部分や具体的なメカニズムについて、もう一歩踏み込んだ有意義な議論を行うことができました。口頭発表の後にはポスターセッションがあり、ドイツビールを片手に活発な議論が行われました。驚いたのは、学生たちが自身の専門外のテーマに対しても、実に的確で内容の濃い議論を行っていたことです。彼らの知識の広さとディスカッション力の高さに圧倒されました。
会期中は毎食、全員が小さな食堂に集まります。テーブルを囲んで話すうちに、学生や先生方とも自然と打ち解けることができました。様々な出身や研究背景を持つ彼らの話を聞くうちに、世界各国から自らの研究への興味を追求してドイツに集まっている人が多いことを知り、ドイツの研究環境が持つ多様性を実感しました。また、学生と先生が話す様子は、驚くほど対等でした。英語という言語がそうさせているのかもしれませんが、先生と生徒という関係ではなく、両者は研究という分野に身を置く同士なのだという雰囲気を強く感じました。このような環境が、彼らの高いディスカッション力を育んでいるのだと納得しました。
海外の学会での初めての口頭発表を通して、自らの研究発表や英語がある程度通用したことは大きな自信になりました。その一方で、現地の学生を目の当たりにし、英語での会話能力やディスカッション能力など、自分に足りない部分も痛感させられました。この貴重な経験を糧に、今後の研究活動にさらに邁進していきたいと思います。
最後になりましたが、会の運営から現地の移動や食事のお心遣いに至るまで奥村先生、鈴木先生、Thomas先生には大変お世話になりました。心より御礼申し上げます。また、このような素晴らしい機会と助成を賜りました日本発生生物学会の関係者の皆様に、深く感謝を申し上げます。ありがとうございました。