2023.07.12

Development Growth Differentiationへの写真提供のお願い

D.G.D.誌では出版号の論文の中から表紙にふさわしい写真やイラストを選び表紙アートに用いてきました。新しいロゴと共に刷新した表紙では、印象深くインパクトのある写真やイラストを引き続き表紙アートへ採用いたしますので、論文投稿者の皆さんには自信作を是非論文データに用いていただき、論文カバーレターでアピールいただければと思います。

また、表紙用写真を常時ストックし、掲載論文の有無に限らず適宜表紙に採用して行きたいと考えております。発生生物学に直接関係なくても、これはという作品をお持ちでしたらdgd2023@jsdb.jp(DGD編集主幹)までメールで是非ご提供ください。提供いただく際、以下の点にご留意ください。

・高解像度 (> 300 dpi) の JPEG、EPS、または TIF ファイルである必要があります。
・英文(50 words以内)でキャプションを記載ください。
・著作物利用許諾書(Permission Request)への署名をお願います。
・提供いただいた写真は必ずしも表紙に採用されるとは限りませんのでご了承ください。
2023.07.12

岡田節人基金 海外派遣報告書 黒木祥友(筑波大学)

筑波大学生命地球科学研究群生物学学位プログラム
黒木祥友(D3)
この度、岡田節人基金海外派遣助成をいただき、アメリカ カリフォルニア州リバーサイドで行われたThe 6th International Insect Hormone Workshop(IIHW2023) (2023/6/18-24)に参加しました。この学会は、2年に一度開かれる昆虫のホルモンを研究する研究者が集う国際学会です。私にとって対面形式で参加する初めての国際学会であったため、楽しみであるとともに大きな緊張を抱えながら学会を迎えました。約10時間のフライトと2時間の車での移動の後にたどり着いたリバーサイドは、目が痛くなるほどの日差しが降り注ぐ、砂漠のオアシスのような町でした。
学会初日には歓迎会が行われ、これまで論文の著者としてしか知らなかった研究者や実験材料を提供してくれた方など、多くの海外研究者と直接会ってお話しすることが出来ました。参加者には、修士課程の学生から90歳を超えられたベテラン研究者まで幅広い年齢層が含まれ、多様なバックグラウンドを持った研究者との交流を楽しむことが出来ました。翌日から行われた研究発表では、すべての参加者が一つのホールに集まって口頭発表を聞き、熱い議論が交わされていました。またポスター発表では、異なる会場に移動し発表者とより密接に議論を交わすことが出来ました。参加者が使用している昆虫は、ショウジョウバエをはじめ、マルハナバチやシミ、サシガメなど多岐に及び、様々な昆虫種について発表を聞くことが出来ました。普段実験で使用していない昆虫種の話は刺激的で、内分泌メカニズムの共通性や多様性に着目することで新たな研究のヒントを得ることが出来ました。発表だけではなく、中日にはExcursionとしてパームスプリングスを訪れ、サンジャシント山州立公園内の散策を行いました。現地の動植物を観察しながら、山の中を5マイル歩くのは運動不足を痛感するほど疲れましたが、海外の自然に触れる貴重な機会となりました。
今回私は、「Female reproductive dormancy in Drosophila is regulated by DH31-producing neurons projecting into the corpus allatum」というタイトルで、キイロショウジョウバエを用いた昆虫の休眠を制御する神経内分泌メカニズムの解析について口頭発表を行いました。この研究では、幼若ホルモンと呼ばれる、昆虫の生命活動において非常に重要なホルモンに着目しています。多くのIIHW参加者がこのホルモンに着目しており、発表について多くの質問やコメントをいただくことが出来ました。どのコメントも、今後研究を展開する上で注意すべきポイントばかりで、今回得た指摘を基にさらに研究を発展させたいと考えています。また学会最終日には、発表内容を評価され、Outside-the-Box Award(最優秀口頭発表賞)を受賞することが出来ました。まさか自分の発表が選ばれるとは思っておらず、非常に驚きました。自身の研究が国際学会の場で高く評価された経験は、今後の研究活動を展開する上でも十分な自信となることと思います。
対面形式での国際学会に参加することで得られた最も大きな収穫は、多くの研究者と直接議論を交わし自分の顔と研究を覚えてもらうことができたことです。これまで行われたオンライン形式の学会では、どうしても新しく出会う研究者に自分を覚えてもらうことが難しいと感じていました。それに対し、今回の学会では7日間の学会期間を同じホテルで過ごし、何度も議論したり、食事を共にしたりする中でお互いへの理解を深めることが出来ました。また、ラボを主催する先生方だけでなく、同じような年代のポスドクや学生と話す機会を持つこともできました。どのようなことを考え研究しているのか、またこれからどのような進路を考えているのか話し合う中で、自身の将来に対する見通しが今一歩明確になったと感じました。
今回の学会では海外の文化に触れる機会も多くありました。英語での日常的なコミュニケーションに留まらず、サービスを受けた際のチップの支払いなど日本では触れられない経験ばかりでした。また渡航前は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うアジア人への憎悪から差別を受けるのではないかと危惧していましたが、実際には触れ合うすべての人が親切で不快な思いをすることなく過ごすことが出来ました。一方で、円安による物価の上昇はすさまじく、軽く食事をとるだけで日本の2~3倍ほどお金がかかる状況には非常に驚きました。
最後になりますが、今回の国際学会参加によって貴重な経験を得られたのは、岡田節人基金によるご支援と、IIHW2023の開催にご尽力された先生方、温かく学会に迎え入れてくださったIIHW2023参加者の皆様、普段から研究を支えてくださる筑波大学丹羽研究室の皆様のおかげです。この場を借りて心より感謝申し上げます。
2023.07.10

青山裕彦さんの訃報に接して

東北大学 仲村春和
1992年松山で開催された日本解剖学会の懇親会にて
左から安田峯生先生、青山裕彦さん、Nicole Le Douarin先生、筆者、竹内(丹)京子さん、絹谷政江さん
青山裕彦さんが2023年6月25日に上行結腸癌でお亡くなりになりました。70歳でした。青山さんより5歳も年上のものとしては非常に寂しさを感じます。
 青山さんは1980年に京大理学部の岡田節人先生の研究室で博士の学位を取得し、1981年から新設の福井医大の解剖学教室の助手になっています。福井医大は1980年に開学していますが、解剖学教室は京都府立医大から野条良彰先生が教授で渡辺憲二君が助教授で赴任しています。2018年に渡辺君が亡くなり、このたび青山さんの訃報に接しほんとに寂しくなります。
 解剖学教室に赴任した時は、ヒトの体の構造を理解しその解剖学名を覚えることと、新設の医大で実習標本を作ったりするので大変だったと思いますが、赴任して次の年の1982年から2年間青山さんはパリ郊外Nogent-sur-Marneにある発生学研究所に留学しています。私はそこに1979年から1980年まで留学していましたが、私が帰国する前から青山さんの留学は決まっていました。
 研究所の所長はウズラとニワトリの細胞を識別することが出来ることからニワトリウズラキメラを作って神経堤細胞の分化のレパートリーを明らかにしていったNicole Le Douarin先生でしたが、青山さんはアメリカのEdelman博士のところからフランスに帰って来て、研究を展開していたJean-Paul Thiéryにつき、神経堤細胞の移動と細胞接着因子についての研究を行っています。神経堤細胞は神経上皮と表皮との境界部の細胞が上皮から飛び出していろいろなところに移動していき、色素細胞、神経節細胞、副腎髄質細胞などに分化していきます。彼は神経節細胞が上皮構造からバラバラの細胞になり、それから集合して神経節を作るメカニズムの研究に従事しています。移動前の上皮構造をとっている神経堤細胞に発現しているカルシウム依存性のL-CAMはバラバラの細胞になると発現が消え、集合の際も再発現することはないが、移動前に発現していたカルシウム非依存性のN-CAMは、バラバラの細胞では発現量が少なくなるが、自律神経節、脊髄神経節として集合する際にまた発現が増してくると言うことを、Cell Differ誌に発表しています。自律神経節の前駆細胞の方が脊髄神経節の前駆細胞よりもN-CAMが早めに発現してくると言うことも報告しています(1)。L-CAMは竹市先生の見つけたE-Cadherinと同じ分子ですが、CAMの発見者であるEdelmanの呼び名でL-CAMとしているところは、青山さんなりに葛藤があったのではないかと思います。
 留学後は福井医大に戻りますが、そこで彼は体節の移植により、その頭尾軸、背腹軸がいつ決まるかという研究、肋骨がどこから出来るかというような研究を行っています。留学中はそういう移植の研究は行っていませんが、独自に習得したと思われ、非常に独創的な研究を行ったと思っています。代表的な研究結果は、ウズラ胚の体節を半分に切ったり、あるいは方向を変えたりしてニワトリ胚に移植した実験で、体節の頭尾軸は体節が出来てしばらくしてから決まることを示しています。神経堤細胞は体節の頭側半分内を移動して脊髄神経節を作るが、体節の頭尾軸が決まった後に頭尾軸を逆転して移植すると、脊髄神経節は体節の本来頭側だったところに作られること、そしてその結果肋骨や椎骨の向きも逆転することを示しています(2)。
 私は1994年2月まで京都府立医大の生物学教室にいましたが、1994年3月に東北大学加齢医学研究所に転出しました。その後に生命誌研究館で研究員をしていた荒木正介さんが私の後任として府立医大に移りました。青山さんは1995年に福井医大から生命誌研究館に移動しています。
 私の師匠である安田峯生先生は2002年に定年で、広島大学第一解剖学教室をやめ広島国際大学に移りました。青山さんは安田教授の後任として2002年に広島大学第一解剖学教室の教授になっています。そこでは体節関係の研究を継続すると共に、肉眼解剖学の教育に力を入れ、解剖学関係の論文も発表しています。2018年には広島大学を定年でおやめになり、広島国際大学で特任教授として研究・教育を行っていました。
 改めて青山さんの足跡をたどってみると、私自身と非常に近いところを通っていたことに気がつきました。青山さんのご冥福をお祈り致します。
(日仏生物学会誌にも掲載予定)

文献
(1) Aoyama H, Asamoto K. 1988 Determination of somite cells: independence of cell differentiation and morphogenesis. Development, 104, 15-28
(2) 2) Aoyama H, Delouvée A, Thiery JP. 1985 Cell adhesion mechanisms in gangliogenesis studied in avian embryo and in a model system. Cell Differ., 17, 247-260
2023.07.05

D.G.D.の1997年以前のバックコンテンツ収載につきまして

いままで1997年以降のD.G.D.は検索・閲覧可能でしたが、1969~1997年の間に出版されたD.G.D.バックコンテンツ論文(D.G.D.となる以前に出版された掲載論文については対象外)についても新たにPubMedで検索可能になり、Wiley版フルテキストページへのリンクが貼られました。
1997年からの収載論文92本に対し、1554論文が追加され1646本に増えたため、より多くの人に読んでいただけるようになると思います。この問題をご指摘いただきました浅島誠会員ならびにデータ提供などにご尽力いただきましたWiley社に感謝申し上げます。

DGD WEBSITE:https://onlinelibrary.wiley.com/journal/1440169x
2023.04.13

DGD編集主幹就任にあたって

2023年4月15日

DGD編集主幹
上野直人
本年1月より平良前編集主幹を引き継ぎ3ヶ月が過ぎました。この間、投稿論文のハンドリングをしながらScholarOneシステムに慣れることや、特集号(Special issue)の状況把握、表紙デザインの刷新に関するステアリングコミッティでの議論などを行なってきました。この3ヶ月間に感じたことなどを含めて編集主幹の就任挨拶とさせていただきたいと思います。

 私が学会長を務めていた2015-2019年には仲村春和先生が編集主幹を務められ、その後、2020-2022年に平良眞規先生、本年2023年1月から私が引き継ぐことになり、学会側から学会誌としてのDGDを見ていた立場から、逆にDGDの立場から学会との関係を考える立場へと大きく変わりました。学会理事会の前に行われるDGD編集委員会で活動状況は表面的には把握していたものの、実際に編集主幹が行なっていた業務や学会との連携やその距離感については、編集主幹となって初めて感じること、改めて感じることが多くありました。いままでもDGDの日本の発生生物学研究を国際的に発信する媒体としての意義を十分認識していましたが、DGDはEmbryologiaの時代を含めて1959年から60余年の歴史をもつ日本の発生生物学を牽引してきた学術雑誌であることの重み、同時に編集主幹としての責任を改めて感じています。創刊当時の研究者の思いや、その後DGDに論文を投稿し研究成果を発表してきた多くの研究者によって支えられてきたDGDを少しでも発展させられるように努力したいと思いを強くした次第です。
 
 すでにDGDは時代の変化とともに大きな進化を遂げています。平良前編集主幹のときに行ったエディターシステムの導入により、専門性をもったエディターが論文のハンドリングを行うようになり、細胞生物学、進化学など広い境界領域も対象として拡大しつつある発生生物学の潮流に対応しつつあります。加えて、論文カテゴリーの多様化、発生生物学の基盤となるリソースや今後導入が必要とされる技術をテーマとした特集号の発刊などの取り組みは2021年のインパクトファクター(IF=3.0)へとつながっており、平良前編集主幹のご尽力に感謝いたします。
 
 一方、この流れを加速し学術誌としてさらに発展させるためには多くの課題があります。それは、一定の質をもった投稿論文を持続的にまた十分な数を確保することの困難さです。いうまでもなく、学術誌にとって論文の科学的な質はその評価の要であり、日本発生生物学会が自信と誇りをもって質の高い論文を世に出すことはDGD、ひいては学会、日本の発生生物学コミュニティーの評価を高めることにつながるもの信じています。そのためには、学会員を中心として、DGDへの投稿を積極的に考えていただくこと、同時に編集主幹、エディター、レヴューアーの円滑な連携を保って論文をしっかりと科学的に審査し、適正な助言、改訂などを通してより良い方向へ「導く」という意識が必要なのだと思います。これは実際には簡単なことではありませんが、著者および出版に関わる研究者間でそのような文化を醸成することも日本の発生生物学の底上げに寄与するものと思います。
 
 この3月に開催されたあるシンポジウムでDGDの宣伝を行うためのパワーポイントスライドを作成しました。その中でDGDの雑誌名に続くメッセージとして”Our Journal, Our Pride”というフレーズを加えました。学会員の皆さんが自分の学会の雑誌であるとの思いをもち、また海外の研究者に対しても誇りがもてる雑誌としてあり続けたいとの思いを言葉にしたものです。編集主幹として、皆さんにそのような意識を強くしてもらえるようなDGDにできればと考えています。今はトレンドでなくとも、将来大きな流れを生む「かも」しれない潜在性のある論文も含めて会員の皆さんからの投稿をお待ちしています。

 この10年の間にオープンアクセス (OA)化への流れは加速しています。多くの人と情報を共有するために魅力的なシステムであることはいうまでもありません。他方、自己負担の場合、OAに関わる費用は決して少額ではなく、躊躇される著者も多いのではないでしょうか。最近ではOA化を促進するために、「転換契約(transformative agreement)」を行なっている大学も多くみられ、現在、Wiley社は日本の18校と契約を拡大しつつあります。各大学ではこの契約の中で一定数の論文に対してOA化に必要な論文掲載料(APC)を全額あるいは一部負担するなどのサポートをしていますので、OA化を望まれる方は是非、各大学の担当者にお問い合わせいただき、積極的にご利用いただきたいと思います。

 このように、学術研究や専門誌出版の動向は日々変化しつつありますが、学会員、エディター、Wiley社DGD担当スタッフの皆さんのご協力を得ながら、DGDの歴史、個性、強みを活かして微力ながらDGDの発展、日本の発生生物学研究の国際的発信に貢献できればと思っております。ご協力のほどよろしくお願いいたします。
2023.04.07

海外便り№17 佐奈喜-松宮舞奈さん (European Molecular Biology Laboratory)

佐奈喜-松宮舞奈 (European Molecular Biology Laboratory)
はじめまして、スペイン、バルセロナにあるEMBL (European Molecular Biology Laboratory)でポスドクをしている松宮舞奈です。はじめに、大澤先生、丹羽先生、執筆の機会を頂きありがとうございます。

経歴
学部時代では、静岡大学の小池亨研究室で胆管上皮細胞に特異的に発現する遺伝子の機能解析に関する研究を行っていました。いろいろと勉強する中で骨形成に興味がわき、 京都大学大学院の影山龍一郎研究室(現在、理研CBS)にて修士課程と博士過程の合計5年間を過ごし、脊椎や肋骨の元となる“体節”の形成を研究してきました。2019年に博士号を取得し、ポスドクとしてEMBLバルセロナの戎家美紀研究室に参加し、5年目が始まったところです。体節形成の研究内容に興味のある方は下の論文を読んでみてください。
マウスES細胞から体節形成過程をin vitroで再現した研究
ES cell-derived presomitic mesoderm-like tissues for analysis of synchronized oscillations in the segmentation clock (2018) Development
ヒトiPS細胞から体節形成過程を再現したオルガノイド研究
Periodic formation of epithelial somites from human pluripotent stem cells (2022) Nature Communications
その他の論文は(https://orcid.org/0000-0002-4824-304X)です。

EMBLバルセロナはどんな所?
EMBLは27の加盟国からのサポートを受けEU内に6か所 (Barcelona, Grenoble, Hamburg, Heidelberg, EBI Hinxton, Rome) の研究施設をもっています。その中のEMBLバルセロナは2017年に設立され、組織生物学と疾患モデルに焦点を当てた研究を行っています。研究所自体はPRBB (Parc de Recerca Biomèdica de Barcelona) という、いくつかの研究所が入居している複合施設の中にあり、目の前は地中海に面したビーチです。夏になると施設全体でビーチバレーボール大会が行われ、EMBLだけでなく多様なバックグラウンドを持つ研究者と交流があります。
海外の研究室に行った経緯
この文章を読んでいる方の多くは、海外の研究室に行きたい!!海外のこのラボに行きたい!!と思い、情報を探し、いくつか受け入れ先を探し、連絡をし…という方が多いでのはないでしょうか。これまでの体験談の方々と真逆といっていいほど “運”で海外の研究室に来た私の経験がどこまで役に立つかはわかりませんが、、、事実を書いていきたいと思います。
私の場合は、ありがたいことに卒業1年前の2018年に筆頭著者論文を出すことが出来ました。そして、このタイミングで分子生物学会に参加したことが大きなポイントでした。学会から数日後、当時、理研に所属していた戎家美紀先生から学会のWeb交流サービスを通じて『2019年にEMBLバルセロナに移動するためポスドクを探しているが、卒業後の行き先は決まっていますか?』という連絡がありました。ぽやーーーと生きてきた私にとって、とてもありがたい提案で、『卒業後の行き先は決まっていません、是非行きたいです』と返事をしました。しかし、『フェローシップを自身で取得する必要があり、フェローシップが終わった後そのままいられるかの保証はない。』ということでした。戎家研究室で新規の実験系を立ち上げるポスドク採用の話だったので何の期間が決まっていないということは不安が大きかったですが、フェローシップを取れれば卒業後の行き先が決まる!というモチベーションで申請書の作製に真剣に取り組みました。無職かポスドクかの究極の選択です。海外学術振興会の海外特別研究員は落ちてしまいましたが、ありがたいことに、いくつか製薬会社のフェローシップに採択して頂くことが出来ました。その中でも2年間貰える第一三共生命科学研究振興財団の海外留学奨学研究助成金をもらい、2019年4月バルセロナへウキウキ向かいました。1年半後、コロナでロックダウンしている中、海外学術振興会の海外特別研究員に再挑戦し、2年間のフェローシップを貰いました。渡航先と金額との相談にはなってしまいますが、製薬会社のフェローシップは日本にいるときでないと出せないので、もし長期を目指すなら、まずは製薬会社のフェローシップを貰ってから海外学振に応募するのをお勧めします。

スペインでの生活
海外に行った経緯が役に立つかわからないので、せめて生活面での経験だけでも役に立てるといいなと思い少し長めに書いてみます。
まず皆さんが海外に移動するとなると治安の良しあし、生活費に関して、特に気になるのではないでしょうか。心配していましたが、バルセロナは思っていたより治安がいいなと思いました。しかし、“気を付けていれば”です。夏になれば公園で爆竹と花火を片手に騒いでいる集団もいますし、まちなかで薬物の匂いもします。同僚は朝方3-4時に路地を歩いていたら首絞め強盗に会い、かばんもお財布も盗まれる事件に遭いました。他の同僚は、メトロで手に持っていた携帯を奪われたり、財布や携帯をすられたりしています。私は、ジャケットのポケットに入れていたミニタオルを盗まれました。ボロボロだったけどお気に入りだったので少し悲しかったです。バルセロナに限らずどの国に行くとしても、夜遅くに出歩かない、警戒しているふりをするだけで減らせる危険は多いと思います。やたらキョロキョロしてあるくのは、おススメです。
バルセロナの食べ物はとてもおいしいです。外食すると日本より高くなってしまいますが、スーパーに行けば、野菜やお肉は日本よりかなり安く手に入るので、自炊すれば快適な生活が送れます。スペインには米料理であるパエリアがあるので、スーパーで売られているお米も種類が豊富で、日本で食べるお米と遜色ないと思います。しかし残念ながら魚は生臭いことが多く、サーモンとマグロ以外はあまりお勧めしません。ただ、スペイン料理といえばほとんどトマトで煮られることが多いのですが、日本風の調理では生臭かった魚もトマト缶で煮込むとおいしくなるので、郷土料理はその地に合った最適な料理方法なのだなと改めて実感しました。
家賃は少し高めで、1人暮らしの部屋で10-15万円くらいです。京都や東京の家賃くらいでしょうか。ヨーロッパではよくあることですが、ほとんどの家は家具家電付きなので、身ひとつで移動できるのがとてもいいところです。しかし外国人(特にヨーロッパ以外)が長期の家を借りるのは少し難しく、3か月分の銀行口座残高証明を求められます。日本の残高証明は受け付けてもらえないこともあるので、はじめは短期の賃貸(11か月まで) を借りるのが安心だと思います。ただ不動産屋や大家さんによって独自ルールがあるので、良い大家さんに出会えるとすぐに長期の家も借りられるようです。私は会えませんでした。地震がない国なので、5階建ての建物全体が傾いているなど、え!?この家を貸すの!?と思うクオリティの家にも遭遇します。私は3年間で既に4回引っ越しをしているのですが 、2つ目の家は部屋が最大5度傾き、椅子に座ると倒れるほど。もちろん床においた瓶はコロコロ転がります。1個目の家がとても良かったので、仲介業者のとてもいい部屋だよという言葉を信じて内見もせず契約してしまった大失態で、さすがに1か月で引っ越しました。賃貸の契約時には、家賃だけでなく仲介料などお金がかかるので、内見は大切という言葉が身にしみました。3つ目の家は、ようやく長期の家を契約できたのですが、建物が古すぎて気温によって窓枠の木が膨張するので、窓が閉まったり閉まらなかったり。修理に来た人は素人で、窓枠を削りすぎて隙間風がつねに吹き込むように。こんなこともあるのかと勉強になりましたが、コロナで不動産屋が倒産しこの部屋は退去することになりました。これまでの経験や、コロナで家賃が下がったタイミングでもあったことから、4年目にして現在の家に出会え、ようやく安定した快適な住環境を手に入れました。バルセロナでは、毎年更新される地価に連動して賃貸料が見直されます。最近、地価が上がった影響で4%家賃も上がりましたが、これ以上引っ越すことはないです(たぶん)。

まとめ
私は良いことが積み重なった結果、バルセロナでポスドクをしていますが、今になってよくよく考えると、戎家美紀先生とお話ししたこともなく、どんな人かも全く分からない中、よく行きたいですと返事したものだなと思います。当時も周りからは結構驚かれました。が、いい機会だしとりあえずやってみよう!と思ってふみだした結果、バルセロナでポスドクができたことはとても大きな財産となり、誘ってくださった戎家美紀先生には本当に感謝しています。しっかり考えると不安が増えてきてしまうので、まずは行動するのもいいと思います。
海外に行くことの心配は多いかもしれないけど、意外と心配するほど大きな問題はなく進んだりするものです。心配してやらないよりは、やってみた方が数倍もいい経験になると思います。人生一度しかないので、自分の思うまま、好きなように、楽しく過ごしてください!!
2023.03.28

海外便り№16 稲葉真弓さん (UConn Health)

稲葉真弓 (UConn Health)
初めまして、コネチカット大学でAssistant Professorをしている稲葉真弓と申します。私は2009年から17年までの間ミシガン大学の山下由紀子先生の研究室にポスドクとして所属させていただき、2017年からはコネチカット大学に雇用されています。所属にいたった経緯としましては、山下さんのポスドク時代の仕事で、幹細胞の非対称分裂後の位置情報ががどのように分裂後の幹細胞の運命決定に携わっているかということを鮮明に示された論文に感銘を受けたので、ポスドクとして雇ってもらえませんか、とメールをして雇っていただけることになりました。
山下ラボではショウジョウバエの幹細胞システムを用いて、どのように幹細胞が実際の組織の中で制御されているか、幹細胞とその周りにいるいろいろな細胞たちがどのように相互作用しているかということにフォーカスして研究を進めました。実際の幹細胞とそのニッチを形成する細胞が明らかに目に見えるシステムですが、その挙動を観察すればするほど、いったいどうやってこれほどの柔軟かつ精密な制御が可能であるのかといった疑問が次々に生まれてくることに気づきました。さらに、一つ一つのメカニズムを解明するたびに、いかにその制御機構がヒトも含む他の生物において保存されているかということにも驚きました。
山下さんは一人一人のラボメンバーにみあった指導をしておられ、私はかなり自由に研究テーマも好きに考えてやらせていただきました。今、自分のラボを持つようになってからは、多額の給料を支払いつつよくそこまで自由にやらせてくれたなあと思います。さらには2012年から5年間にわたって、家族の都合でテキサス州に住むことになり、遠隔地でのコラボレーション先に所属していたのですが、その間も途切れることなく雇用を続けていただき、ポジション探しに際しても随分助けていただきました。後になって考えると、もっと成果を出すべきだったな、と思います。自分のラボを持つことになった今後は、引き継いだ山下ラボのサイエンスのスタイルを使っていい仕事をしていくこと、自分のラボのメンバーたちを立派に育てるという形でpay offしていくつもりです。
ポスドクの最終年には、夫婦ともに各60ほどの公募に応募して、私は5か所ほどでインタビューうけましたが、あまりストラテジーを建てずにインタビューに挑んだうえ、食事の際にワインを飲みすぎて調子にのったりと、ほとんど惨敗しました。コネチカット大学の面接は幸いにも失敗せずにすみ、さらに夫婦での職探しに協力してもらえそうだったのでオファーを受けました。デパートメントはラボの立ち上げにとても協力的で、さらには3年後にには配偶者のポジションも取得できました。
コネチカット大学の規模は小さめですが、あまりストレスもなく、研究以外のdutyも少なめで、研究を楽しむといった環境としては良い方ではないかと思っています。もともと私自身、行き当たりばったりで医学部に入ったものの、生物学、医学はあまり得意ではありませんでした。教科書一ページごとに、何か腑に落ちない、すっきりしない、わかったような、わからないような、といった感覚に陥って、なかなか次に進めないといったことが多々あり、学部の学生時代は特に困っていました。後になって研究を始めてから、このような感覚、当たり前と言われていることでも何か腑に落ちない、ほかのシステムで分かっていることと照らし合わせると矛盾している、といった感覚は、実は間違いではなく、テキストブックには、実際によくわかっていないことがいかにもわかったように描かれているからだということに気づきました。よくよく観察し、深く実験の結果を考慮すると、誰も考えてもいないこと、気にも留めていないようなことを私達の体や細胞はよく知っていて、その上でうまく調節しているということがたくさん見えてきます。現在は研究を進める上で、自分自身の何か腑に落ちないな、という感覚にはとても助けられていて、うちのラボではそこから生まれたプロジェクトがいくつも並行して進んでいます。とくにラボのメンバーには当たり前と思われていることも、よく考えて、そこから出てきた疑問を突き詰める、といったスタイルを伝承したいという気持ちで日々ディスカッションしています。
アメリカに来ることになったのは以上の経緯で、こちらも行き当たりばったりな感がありますが、実際にアメリカの社会に入ってみると、私自身にとっては日本にいた時と比べて随分なじみやすいなと感じています。いろいろな人種が混じりあっている移民社会なので(言い換えれば、全然出どころの違う人たちが皆ある程度満足できるところで落ち着いた社会構造であるので)、誰にとってもある意味住みやすさがあるのではないかと思います。とはいっても、私自身ほんの一部の社会にしか触れていませんので、何とも言えませんが。
ミシガンも自然は素敵でしたが、コネチカットもそうで、町の中にも思ってもみないところに大自然が残された公園があったり、夏はホタルがいっぱいいたり、秋は目の覚めるような紅葉が見れたりと、いろいろなところで癒されます。日本人の人口は少ないですが、最近5歳になった双子が日本人補習校に通いだし、日本の方々と知り合うことができました。一時的にこちらに数年滞在する方、長く住んでいる方などいろいろですが、日本とアメリカの違いなどを面白おかしく話たりと、共感できることもあり、おもしろい友達ができそうです。
コネチカット州ハートフォードの郊外にある公園と農園直営の野菜の販売所。日本で見かけない野菜や、めずらしい植物などがみられます。好きな野菜を自由に収穫して購入することができます。
コネチカット州ハートフォードの郊外にある公園と農園直営の野菜の販売所。日本で見かけない野菜や、めずらしい植物などがみられます。好きな野菜を自由に収穫して購入することができます。
海外、国内、とは関係ないかもしれませんが、このような経緯をとってよかったと思うことは、いろいろな人との出会いです。研究を続けていると、それを通して長くつづく大切な出会いがたくさんあります。研究者同士のつきあいでは、自分のやった仕事がアイデンティティとなります。そこで大事なことは自分の仕事に誇りを持てるような仕事をすることじゃないかなと思います。自分のやることを愛しなさい、というのは実はニューシネマパラダイスという映画のアルフレードというおじさんがいった言葉のパクリですが、人生の教訓にしています。
取り留めない文章になってしまいましたが、研究者として今後の行き場を探っている若い方々に、何らかの参考になれば幸いです。
以下にラボにおいて現在進行中のプロジェクトの一部を紹介します。
1.非対称分裂の必要性を検討する
ショウジョウバエの生殖幹細胞は非対称分裂の研究に盛んに用いられています。ニッチを形成する10個前後の細胞が小さな塊となって精巣の末端に存在し、生殖幹細胞はそれをとりまくように存在します。生殖細胞が分裂する際には、紡錘体がニッチと幹細胞の接触面に対し垂直に形成されるため、娘細胞は一つはニッチの近傍、もう一つは遠方に配置されます(図1)。その結果2つの娘細胞はニッチからの距離の違いにより、自己複製と分化へと異なる運命に決定されると考えられています。この配置は大変厳密に制御されていて、90%以上の幹細胞の分裂は結果的に非対称となります。しかし意外なことに、なぜ幹細胞が非対称に分裂する必要があるのか、ということは実はまだ謎です。というのはニッチのスペースが幹細胞の数を決定しているため、非対称分裂が起こらなくても、結果的にニッチの近傍にいる細胞のみがそのシグナルを受けて幹細胞の運命を維持するので、幹細胞と分化していく細胞のバランスは保たれることになります。実際、紡錘体の方向の調節を阻害しても幹細胞の数と分化のバランスほぼ正常に保たれます。
そこで私たちは、一つの可能性として、非対称分裂は幹細胞の遺伝学的多様性を保つために必要なのではないかと考えました。幹細胞が非対称に分裂することで、ニッチに例えば3つの幹細胞が維持されているとすると、もしある時点でDNA上に変異が起こった場合でも3種類の遺伝学的に異なる細胞が永遠に維持されることになります。ただある確率で対称分裂が起こり二つの娘細胞が両方ニッチに入り、別の一つの幹細胞が追い出されたりすると、この多様性の維持は乱され、いずれ一つの幹細胞由来の細胞がニッチを占拠することになります。この現象はneutral competitionと呼ばれ、幹細胞の対称分裂がよくみられる腸などにおいての幹細胞のクローンの増殖の一因として考えられています。
幹細胞非対称分裂がどの程度幹細胞クローンの多様性維持に関わっているのかを検定するために、我々はまずFLP-FRTシステムを用いたクローン追跡を行い、非対称分裂の頻度を正確に検定しました。その後得られた頻度をもとに数理モデルを構築し、非対称分裂が乱された場合にどのくらいのスピードでクローンがニッチを占領するのかということを検定しました。その結果、単一幹細胞クローンの占領までにかかる時間は非対称分裂の頻度に強く依存し、非対称分裂を恒常的に行っているニッチにおいてはその頻度が高ければ高いほどクローンの増殖までの時間がかかることがわかりました(図2)。
この結果は、ニッチが幹細胞の数を決定する主要因子となっているすべての幹細胞システムにおいて適応可能であり、近年着目されている造血幹細胞のクローン増殖や、がんの進化・悪性化などの原因のさらなる理解、予防、治療戦略等に貢献すると考えられます。当ラボにおいては並行して非対称分裂の制御機構の遺伝学的、生物学的な解析に加え、数理モデルをさらに応用し、単一クローンが変異により様々な異なる表現型を獲得した場合に、どのような表現型が選択的優位性をもたらしニッチを占領する結果につながるかという検定を進めています。
幹細胞の非対称分裂においては細胞内にすでに存在し不均等に分配する因子も数多く知られており、それらの因子の分配は非対称分裂がなされない場合にランダム化されることになります。各因子の分配はそれぞれ異なる生理的意義があると考えられることから、非対称分裂の生理学的意義は複数あると予想されます。おそらく進化の早い段階で始まった非対称分裂を利用して、様々な因子がこの都合の良い機構を利用して不均等分配を獲得し、それらの個体が優位に集団の中で生き残ってきたのではないかと考えます。
2.非対称分裂前後の遺伝子発現の変化を知る
遺伝子の発現の調節は転写因子の作用に加え、クロマチン構造、ヒストンなどの翻訳後修飾、さらには近年ではマイクロRNAの作用などの様々なレベルで行われていることはよく知られていますが、実は細胞の特性が変化する場合にどういった順序で遺伝子発現変化が起こるのかということは意外にもよくわかっていません。ショウジョウバエの精子幹細胞のシステムでは、事前にプログラムされた遺伝子発現の変化が決まった順序で起こります。特に幹細胞の非対称分裂に際しては、一度の分裂の前後ですでに異なる遺伝子発現パターンの構成が始まっていると予想されていて、遺伝子発現変化のモデルとして有用なのではないかと考えました。
そこで私たちは、幹細胞特異的に発現していると考えられているSTAT92Eという遺伝子に着目し、nascent transcriptの変化をイントロン配列に対するプローブを使ったFISH法にて調べたところ、予想通り細胞の分化が進むごとに転写量が徐々に減少していくのが観察されましたが、それ以外にも予想外の面白い現象が確認されました。
ショウジョウバエでは母方、父方由来の二つの相同染色体がペアを作って存在しています(Somatic homolog pairing)。そして各遺伝子領域(正確にはTADs:topologically associated domains)の相互座用は、その発現量に相関して強かったり弱かったりすることが報告されています。我々の解析により生殖幹細胞において、二つの相同染色体上のSTAT92E遺伝子の領域は強く相互作用しているのに対し、分裂後に分化に方向づけられた娘細胞では有意に相互の距離が離れていることがわかりました。さらに詳しく調べてみると、この遺伝子領域の物理的な距離の変化は、分化に伴うSTAT92E 発現量の急激な減少に必要であることがわかり、遺伝子発現変化のかなり上流の段階での調節であることが予想されました(文献1)。
今後の研究では、この遺伝子座をモデルとして、相同染色体上の遺伝子領域相互作用の物理的な変化がどのように調節されているのか、またそれによって遺伝子発現量が変化するメカニズムを調べていくつもりです。

文献1:
Antel, M., Raj, R., Masoud, M.Y.G. et al. Interchromosomal interaction of homologous Stat92E alleles regulates transcriptional switch during stem-cell differentiation. Nat Commun 13, 3981 (2022). https://doi.org/10.1038/s41467-022-31737-y

研究室ウエブサイト: https://health.uconn.edu/germline-stem-cells/
2023.03.24

岡田節人基金 フランス海外派遣報告書 山口明日香(大阪大学)

大阪大学大学院 理学研究科
山口明日香(D1)
この度、岡田節人基金海外派遣助成をいただき、フランス・ストラスブールにて行われた第3回日仏合同ミーティング(2022年11月7日-10日)に参加しました。新型コロナウイルスの流行が始まってから初めての海外経験で、このような機会を心より楽しみにしておりました。というのも、国際的な場でいつか研究発表をと夢抱き大学院に入学するも数日後に緊急事態宣言が発令され、以降海外渡航への壁が高くなってしまいました。それから2年程経ち徐々に規制緩和がされていく中で、日仏合同ミーティングのNew Frontiers in Developmental Biology : Celebrating the Diversity of lifeというタイトルを見つけ惹かれ演題登録をしました。

タイトル通り、多種多様な発生生物学研究の魅力あふれる研究発表ばかりで、眠気に襲われる余裕のないほど充実した4日間でした。普段発生生物学会には参加していないけど、という方々の研究発表も聞くことができ、そんな面白い現象があるのかと驚くようなこともありました。研究手法についても、数理モデルを使ったシミュレーションやバイオインフォマティクス、ライブイメージング手法の改良等、“見えないもの”への多岐にわたるアプローチの最先端を知ることができ、見えていない、捉えられていないだけでまだまだ面白いことがたくさんあることを実感しました。このような様々な動植物の独創的な研究発表がある中で、嬉しいことに私は口頭発表の機会をいただけました。発表前は緊張しすぎて信号を見ずに道路を渡りそうになったりと正気ではなかったのですが、無事会場について本当によかったです。1つの部屋で全員が1人の発表を聞くというスタイルでしたので、発表後には様々なバックグラウンドを持つ研究者から非常に有益なご意見・評価をいただくことができました。多くの人に自分の研究を知ってもらえただけでなく、ぜひ私の発表を聞いてほしい、議論させてほしいと思っていた研究者の方々からコメント・ディスカッションしていただけたことは、この上ない貴重な経験となりました。発表自体が完璧であったかといえばほど遠く、反省点の多く残るものでしたが、4日間を総じて、今の研究、それから卒業後の展望を考える上で非常に有意義な時間を過ごせたと思います。

研究発表も強烈でしたが、同じくフランスでの食事もとても充実していました。コーヒーブレイク中、私は次から次へ出てくる名前の分からない創作料理の虜になっていました。休憩中ついつい食に集中し、気づけば1人ぼっちだったということもありましたが、しかしそこは外国。食べ物から顔をふっとあげて偶然目があった、初対面である女性研究者に、手でおいでよと導かれ、そこで開かれていた小さな女子会に招いていただきました。どんな話がなされていたのかはここでは残念ながらご報告できませんが、様々な立場の研究者がそこにはいて、普段聞くことのない違う観点からの面白いお話を聞くことができました。

今回のミーティングでは、懇親会や日本領事館主催の晩餐会などといったイベントも盛りだくさんで、特に生物の発生をテーマにしたプロジェクションマッピングは印象的でした。歴史あるストラスブールの町中で、様々な動植物の胚発生の写真を駆使しオリジナリティ溢れる音楽をバックにした映像作品に、ふらっと訪れた一般の人々も楽しんでいる様子が見られました。市民講座や博物館の催し以外にも、このような気軽にサイエンスを楽しめるアイデアは面白くもあり大事であると思いました。女子会もそうでしたが、本ミーティング全体として、立場や国籍関係なく多様であることを前提に、フランクにサイエンスを共有できていた雰囲気は、私にはとても心地よく感じられました。

最後になりましたが、本ミーティングの開催に際し運営に携わった日仏発生生物学会関係者の皆様、そして故岡田節人先生に心より感謝いたします。本当に貴重な経験をありがとうございました。
2023.02.28

海外便り№15 天久朝恒さん (MRC London Institute of Medical Sciences)

天久朝恒 (MRC London Institute of Medical Sciences)
Research Associate
Gut Signalling and Metabolism Group
MRC London Institute of Medical Sciences
Imperial College London
London, UK
email: t.ameku[at]imperial.ac.uk
はじめに

イギリス・MRC LMS/インペリアルカレッジロンドンでリサーチアソシエイト(ポスドク)をしております天久朝恒と申します。私の経歴を簡単に振り返ると、学部生(筑波大)の時に、小林悟先生(当時は基生研、現在は筑波大)の集中講義に出席したことがきっかけで、キイロショウジョウバエを使った研究に興味を持ちました。その後、丹羽隆介先生(筑波大)のもとで約6年間、ショウジョウバエの生殖幹細胞にかかわる研究に従事しました。具体的には、交尾後に卵形成過程が活発化するメカニズム、およびその制御因子として卵巣で生合成されるステロイドホルモンや腸から分泌されるペプチドホルモンに着目していました。2018年に博士号を取得し、ポスドク先としてProf. Irene Miguel-Aliagaのラボにジョイン、ロンドン生活5年目の現在に至ります。

研究

私たち「Gut Signalling and Metabolism」グループでは、成体器官のリモデリングとして特に腸の可塑性に興味を持ち、ショウジョウバエ・マウス・オルガノイドをモデルに研究を進めています。現在ラボメンバーは13名(ポスドク7、PhD 学生4、テクニカルスタッフ2)で、それぞれがオリジナルかつチャレンジングなテーマに取り組んでいます。Ireneのラボに興味を持ったのは、交尾後の腸リモデリングに関する論文を読んで面白いなと思ったことと、博士課程で取り組んでいた自分の研究や興味をより発展できるような気がしたからです。特に彼女との面識はありませんでしたが、メールでやりとりして、D2の秋にインタビューに行きました。ちなみにインタビューに行ったのは日本とアメリカのラボを含めて合計3つで、どのラボでも「セミナー、ラボメンバーとの1 on 1ミーティング、ランチ/ディナー」という一般的な流れでした。スピーディーな英語になかなかついていけず苦労しましたが、当時のIreneラボのメンバーが、ヨーロッパで出せるフェローシップのリストをわざわざメモに書いて渡してくれたり、ロンドン観光のおすすめルート(テムズ川沿いの散策etc.)を詳細に教えてくれたりして、色々と良くしてもらったことを覚えています。無事フェローシップ(海外学振)に採択されたこともあり、学位取得後にラボにジョインすることができました(ポスドクがみなフェローシップによるself-fundedという訳ではなく、数としてはemployedの方が多いと思います)。私の場合、海外学振(2年)→上原(1年)→グラント雇用(現在まで)という流れでした。留学開始〜3年経過時の振り返りは以下の記事に寄稿しましたので、よかったらご覧ください。

上原記念生命科学財団 海外留学だより|イギリス・2020年度版掲載分
https://www.ueharazaidan.or.jp/tayori/tayori_UK.html

ラボ生活で再認識することは、ディスカッションの重要性です。ボスは多忙ですが、相談ごとや話し合いにはウェルカムで、いつでも彼女のオフィスに立ち寄ってチャットすることができます(オープンドア・ポリシー)。日々のコミュニケーションはもちろん、ラボミーティングでは、スライド/データの説明よりも、多くの時間をインタラクティブなやりとり(質疑応答やディスカッション)に費やす印象があります。ジャーナルクラブでは、誰かひとりが論文を説明する代わりに、決められた論文を全員が事前に読んできて、すべての時間をオープンな議論にあてる、というスタイルをとっています(一方で、長い会議はあまり好まれないというのもひとつの特徴かもしれません)。“Don’t demonstrate, but illustrate”というのは、プレゼン(学会発表等)におけるボスの教えです。自分がプレゼンする際にも、少なくとも学会発表/セミナーにおいては、big picture を描けるよう(そこから活発な議論に繋げられるよう)心がけています。

生活

研究所の位置する西ロンドンは落ち着いていて比較的治安が良いエリアです。中心部までのアクセスも悪くなく、Francis Crick InstituteやUniversity College Londonがあるセントラルロンドンまでチューブ(地下鉄)で30分ほどです。ロンドンは、バス・チューブ・オーバーグラウンド等の公共交通機関が発達しているため、車がなくても困りません。私が住んでいる西ロンドン・チズウィックは、家族連れやワンちゃん連れも多く、生活のしやすいエリアです。個人でやっているような、地元に根付いた素敵なお店(カフェ・レストラン・ワインバー・お肉屋・パン屋・ジェラート屋etc.)が多く、ロンドン=都会とは言うものの、人の温かみを感じることができる街です。お店が立ち並ぶ通りには緑やベンチもあって、活気はあるけどおしゃれで落ち着いている、東京でいう「自由が丘」のような雰囲気もあります。一方、ロンドン生活のネガティブになりうる点を挙げるなら、家賃・物価が高い、硬水である(ブリタ浄水器は必須アイテム)、冬にボイラーが故障してお風呂のお湯が出なくなる(キッチンで沸かしたお湯+ペットボトルに穴を空けた手作りシャワーが活躍)、あたりでしょうか。ただ、慣れるとトラブルに対して「困る」という感覚はなくなると思います。

私は単身で渡英しましたが、縁あって2021年12月に日本で結婚し、2022年4月にパートナーが渡英、現在は二人で暮らしています。彼女のビザ(dependant visa)については、私のビザ(Tier 1)に帯同する形で取得しました。当時の情報になりますが、帯同ビザの必要書類として重要なものは婚姻証明のみで、それほど複雑なプロセスはなく、アプリケーションのほとんどがオンラインで完結しました。一方で、イギリスの他のビザと同様に、時間とお金(申込料 + 保険料)はそれなりにかかりました。保険料については人数x年数で支払うため、ご家族で移住される方は請求金額に驚くかもしれません。帯同者が就労できるかどうかは、国やビザの種類によって異なりますが、イギリスだと基本的には認められているようです。彼女は日本でIT企業のデザイナーとして働いていましたが、こちらではフリーランスデザイナーとして、日本のクライアントとリモートで仕事をしています。最近では地元のパン屋さんでパートタイムジョブを始めたり、他の日本人研究者(+彼らのパートナー)らと食事に出かけたりすることで、外部とのつながりも拡がりつつあります。家庭/家族以外との社会的なつながりを持つことは、彼女のウェルビーイングのためにも重要だと感じています。

文化

ロンドンには素敵なパブがたくさんあります。パブ文化の好きなところは自由なところです。パブで集まりがあるとします。お会計は基本的に注文ごとにその都度支払うため、いつ来てもいつ帰ってもいいし、飲んでも飲まなくても、食べても食べなくてもいい、というflexibilityがあります。なんなら参加するのも参加しないのも自由です。誰が来て誰が来ていないとか、他人のことはいちいち気にしません。個人にはそれぞれ事情があるし、プライベートの時間を大事にしようという風潮があるからです。「多様性を尊重する」と聞くと、なんだか大げさな感じがしますが、大切なのは「選択肢があること」だと思います。パブでは個別会計だとか、例えばレストランでは必ずベジタリアン/ヴィーガンメニューがあるだとか聞くと、なんだかスケールの小さい話に感じる人もいるかもしれません。が、日本で議論にあがる多様性に関する話題についても根底にあるものは同じで、重要なことは「個人が選択できる」「選択が周囲に受け入れられる」「選択にお互いが干渉しすぎない」ということだと個人的には思います。

「日本人は親切だ」とよく耳にしますが、ロンドンにいる人たちもまた親切です。高齢者の方や妊婦さんには席を譲ったり、(エレベーターのない)駅の階段でベビーカーを抱える人には手を貸したりするのが普通です。ロンドンで生活していて気づいたことは、言語や文化的背景が違っても、人間の持つ感情や、根本的な部分は大して変わらない、ということです。つまり、他人に対してリスペクトを持って親切に接していれば、それはまわりまわって自分に返ってきます。そしてその逆もまた然りです。基本的には褒める文化(ナイストーク!ナイスヘアカット!)で、少なくとも私の周りでは、噂話や誰かの悪口を言う人をほとんど見かけたことがありません(なにかを直接complainする人はたくさんいますが)。「なんとなくツイてない、うまくいかない」ということが重なる時が(海外生活では特に)あると思います。そんな時こそニコニコ余裕を持って、できるだけ他人に親切に過ごしていれば、ちょっとずつ歯車が良い方向に回り出したりもする、というのが私の心がけているライフハックです(もちろん問題解決には具体的な行動が必要ですが)。

おわりに

“Any explanation or logic that explains everything so easily has a hidden trap in it. I’m speaking from experience. ... What I mean is don’t leap to any conclusions.”

ちょうど読み進めていた小説(Sputnik Sweetheart)で、思わず目に留まった言葉です。ロンドンで学んだことのひとつは「ある物事について、立体的に観たり考えたりすること」です。結論めいたものや、イエスかノーかよりも、その背景にあるもの(そしてそれを理解しようとすること)の方が重要な場面が、数多くあります。それは、文化や価値観の異なる土地で生活し、「予想外のできごと」「驚き」「失敗」を通じて学んだことだと思います。こちらでの研究環境や生活について、なんとなく雰囲気良さげに書いてみましたが(実際にはトラブルの連続です)、今の仕事がまとまったら、次のポジションは日本で探そうと考えています。自分やパートナーの家族が日本にいることや、今まで学んできたことをサイエンスや教育を通じて日本で還元したい、と思うようになったことが理由です。最後になりますが、今回の執筆の機会をいただいた、大澤志津江先生、丹羽隆介先生、平林享先生にこの場をお借りして御礼申し上げます。

※もし留学に関して質問のある方がいらっしゃいましたら、なんでもお気軽にご連絡いただければと思います。
@Cafe Coffeeology (2023)
@Lab day out (2021)
2023.02.10

生物科学学会連合から報道機関関係者の方々へのお願いについて

生物科学学会連合から以下の内容を主要メディアに発信するとの連絡がありましたので、お知らせいたします。

生物科学学会連合から報道機関関係者の方々へのお願い
生物科学学会連合 代表 東原 和成
日頃、新聞、雑誌、テレビ、ウェブ配信など、様々なメディアで科学研究関連のニュースを取り上げていただきありがとうございます。科学研究の成果は、通常、原著論文という形で専門雑誌に発表されますが、その内容をわかりやすく一般の方々に伝えることも、非常に重要な研究活動の一つです。
ここで、研究者のプレスリリースをメディアで取り上げていただくにあたり、お願いしたいことがあります。それは、科学研究に関するあらゆる報道で、原典の論文を引用していただくことです。原典を参照することによって、読者や聞き手は研究の詳細を知り、結果の背景を正確に理解することができます。誤った解釈がいたずらに拡がっていく危険性を防ぐこともできます。
特にお願いしたいのが、ウェブサイト版の記事に原典へのリンク(doiやPubmed IDなどの固有インデックス)を付けていただくことです。多くの読者は実際に原典を参照することはないかもしれませんが、原典へのリンクがあることで正確性や透明性が高まり、報道の影響力も強くなることでしょう。また、近年は学術論文を評価する上で、注目度や社会的影響を加味したオルトメトリクス(altmetrics)という指標も用いられるようになってきており、報道に原典へのリンクが付くことで、国際社会における我が国の研究の認知度が大きく向上する効果も期待できます。
研究者が情報発信できる手段は限られており、一般の人々が最新の研究成果にアクセスするためには、報道関係者の方々の力が欠かせません。日本の研究をより発展させるためにも、報道における原典の引用に、ぜひご協力をお願いします。


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