2022.12.12

NGS発生生物学現場の会2022 参加報告書 金子杏美(筑波大学)

筑波大学グローバル教育院ヒューマニクス学位プログラム2年
金子杏美
私は、副指導教員である尾崎遼先生がNGS発生生物現場の会で講演をされるということで、発生生物学会には所属していないのですが、この会の存在を知りました。wetの研究が主で、バイオインフォマティクスに関しては勉強中の身でしたので、考え方やできることなどを学べれば、と思い参加させていただきました。
実際に参加してみて、自分とは違うモデル生物を利用している人や、発生生物特有のトランスクリプトームを明らかにしている実験の紹介など、とても刺激になりました。一般発表では、私の研究分野は、参加者の方々とは違う睡眠という分野だったため、わかりやすく説明するというような良い練習になりました。また、知識の豊富な方々から、自分ではどうにもできなかったサンプリングによる傾向が補正できるはずだ、というようなことや、そもそもChromiumを利用したsnRNA-seqでは目的の細胞を十分量得ることは難しいため実験手法を変えた方がいいのではないか、といったこと、組織学的にトランスクリプトームを得られる新規手法についても教えていただき、研究室に持ち帰って検討したいと考えています。また、中身がブラックボックスのような気持ちで行っていた解析が、先生方の開設によって明らかになったり、論文をpublishする際にはきちんと明示しなければいけない数字などについても明確になったりと、今後のモチベーションに繋がりました。
また、先生方の講演も大変参考になりました。とくに、企業研究者の田崎さんの講演は、今後、就職かアカデミアの道か、を考える上でとても勉強になりました。大学では、動物実験はたくさん行われていますが、企業特有の動物実験を減らさなければいけない、というような事情は、マウスを利用した実験を主に行なっている自分としては、企業に就職する場合は動物種を変えなければいけないのかなど、将来を考えるきっかけとなりました。さらに、鹿島先生のプレゼンのプログラミング初学者へのアドバイスで、時間と労力を削るための手間は惜しむな、といったことをおっしゃっており、私自身、出力されたリストなどを、ついエクセルでいじりたくなってしまうので、肝に銘じたいと思いました。
 この度は、このような、初学者のための会を開催していただき、進歩の早いNGS分野の様々な技術や解析法・活用法について情報交換・議論する場を用意していただきありがとうございました。また、機会がありましたら是非参加させていただきたいです。
2022.12.12

岡田節人基金 フランス海外派遣報告書 矢ヶ崎怜(京都大学)

京都大学大学院 理学研究科
矢ヶ崎怜(D3)
この度、岡田節人基金若手研究者海外派遣助成にご採択いただき、フランス・ストラスブールで行われた第3回日仏合同ミーティングに参加いたしました。コロナウイルスの流行のため、これまで海外の学会に参加する機会に恵まれず、今回が初めての海外学会となりました。ホテル予約やパリからストラスブールに向かうための高速鉄道の予約など、行く前からドキドキではありましたが、日本から参加するメンバーでのslackを立ち上げていただき情報を共有していただいたため、滞りなく行うことができました。

ストラスブールはパリから高速鉄道で2~3時間ほどのところにあり、心配とは裏腹に、とても治安のよい街でした。4日間ホテルからストラスブール大学に歩いて向かい、なんとなく海外での研究生活も想像できたような気がします。

今回のミーティングでは、私は蠕動運動に特化した腸収縮性オルガノイドの解析についてポスター発表を行いました。発表時間は2時間に設定されていましたが、英語で説明、ディスカッションをしている間にあっという間に終わっていました。まだまだ足らない部分は多いですが、英語で相手の言ったことを理解し、答えられたというのは自信につながりました。今後も臆することなく英語を話し、もっと伝えたいことが適切に伝えられるようにしていきたいと思います。また、一緒に日本から参加した先生方にもたくさん研究を聞いていただき、有意義な時間を過ごすことができました。いただいたアドバイスを今後の研究に生かしていきたいと思います。

その他に、このミーティングで参加して良かったことを3つ挙げたいと思います。
1つ目は、1つの部屋で口頭発表を聞くという形をとっていたということです。それにより、自分の研究に近いものから、あまり聞く機会のなかった分野の研究など、発生に関する幅広い研究を聞くことができました。馴染みのない分野の発表は自身の知識の幅の狭さを知るよいきっかけでした。

2つ目は、数時間に1回、コーヒーブレイクがあったことです。この時間を有効に活用し、発表者の方のところへ行って質問したり、色々な方の研究を聞いたりすることができました。また、ミーティング終了の翌日、コーヒーブレイクで知り合ったフランスの学生がパリを案内してくれました。生物学という共通点があるからこそ、仲良くなれたように感じています。

3つ目は、笹川財団からの助成をいただき、参加学生の多くが同じホテルに泊まっていたことです。日本の学会であればなかなか話しかける機会というのはありませんが、慣れない海外で夜遅くまで学会もあるため、みんなで一緒に帰ろうと声を掛け合って生活しました。夜には先生方と一緒にご飯に行かせていただき、山あり谷ありの研究人生を伺いながら、楽しい時間を過ごすことができました。これからも学会等で会うことができると思いますので、みんなに負けないように頑張りたいと思っています。

最後になりましたが、様々なご支援をいただきました、林先生をはじめ多くの先生方にこの場を借りて感謝申し上げます。
2022.12.12

岡田節人基金 ISDB海外派遣報告書 河西通(東京工業大学)

東京工業大学 生命理工学院
河西通(助教)
この度は岡田節人基金からご支援をいただき、2022年10月16日から20日にわたってInternational Society of Developmental Biology(ISDB)の主催する19th International Congress of Developmental Biologyに参加しました。

ISDBは1968年に発足した国際組織で、Cells & Development(2020年まではMechanisms of Development)やGene Expression Patternsの発行母体として我々にも馴染みがあります。ISDBはこれまで、日本のJSDBやアメリカのSDBをはじめとした各国の発生生物学会同士の交流を促進するため、およそ4年に1度の周期で大会を開催してきました。また大会中にはRoss G. Harrison Awardの授与式も執り行われます。1989年には本基金の設立者である岡田節人先生が同賞を授与されました。大会の開催地はこれまでアジア・オセアニア、アメリカ、ヨーロッパの各地を巡っており、今年はポルトガルの南岸に位置するリゾート地・アルガルヴェでした。白亜のホテルや住宅が立ち並び、とてもリラックスした雰囲気で大会に臨むことができました。
ISDBへの参加を申し込んだ6月当初、私は国外の研究者と対面でディスカッションできることへの大きな期待と、未だ尾を引くコロナ感染症に対する不安の両方を抱えていました。罹患そのものに対する恐れもありますが、学会滞在中のわずかな期間で万一感染してしまうと帰国が許可されず、数週間にわたりポルトガルのホテルに足止めされてしまう可能性があったからです。ただその後9月になり、帰国時のPCR検査による入国規制は緩和され、帰国が滞る可能性はほぼなくなりました。とはいえ、ポルトガルでのコロナの流行状況やマスクの着用状況はわからないままです。全世界から人が集まる国際学会で、しかも4年周期のところが今年は1年遅れの開催となり、一層密になるのではないかと危惧して、せめてもの感染予防グッズとしてN95マスクを買い溜め、大会当日に備えました。
いざ大会が始まると、現地には約600人もの参加者が集まり、広い学会会場のあちこちで朝から晩まで議論が活発に行われたため、出国まで抱いていたコロナへの不安をよそに、とても刺激的な5日間を過ごせました。

大会の一番の収穫はなんと言っても、面白い仕事をする海外研究者や、普段読んでいる論文の著者に直接会えたことでした。論文は十分な推敲を経て理性的な筆致で書かれますが、著者本人の人となりや情熱、また研究の背景にある考えは対面でこそ伝わってくるものです。今回Ross G. Harrison Awardを受賞されたカリフォルニア工科大学のMarianne Bronner博士は、記念講演としてご自身による神経堤細胞研究の経緯を概説されました。講演の中で、氏の研究展開に対する静かな興奮、そして理路整然と講演される様子に、大袈裟に聞こえるかもしれませんが私は感動しながら拝聴していました。エキサイティングな研究発表をされるかたは他にもたくさんいらっしゃり、うち何人かとは実際に顔を見ながらディスカッションでき、知り合いになることができました。
また、各国から参加者を募る国際学会ゆえに、世界の発生学研究の潮流を知ることができた点も大きな収穫です。なかでも、大会初日に行われたオルガノイドにまつわる講演セッションは興味深く拝聴しました。2008年に理研の笹井芳樹博士のグループが大脳皮質オルガノイドを報告して以来、さまざまな臓器のin vitro作成法開発や疾患の作用機序解明など、オルガノイドはおもに医学的方面で大きな進歩を遂げてきた印象がありました。今回の大会ではそのオルガノイドを道具として用いて基礎生物学的な問いに迫るエキサイティングな研究がいくつもあり、発生生物学の流れの変化を体感しました。

ポスターセッションも大賑わいで、ありがたいことに私は本大会でポスター賞をいただくことができました。今回、ポスター筒をロストバゲージすることがないよう、初めて布ポスターを使用したのですが、布地にも共焦点顕微鏡の蛍光画像が精細に映ること、持ち運びがとても楽なことに驚きました。国際学会でポスター発表される方にはお勧めします。
当初懸念していたコロナについてですが、会期中もやはり会場内外で猛威を振るっていました。私が個人的にディスカッションしたいと思っていた研究者を含め何人かの発表者がオンライン参加や欠席となったほか、私自身もポスターセッションか、あるいは円卓を囲む晩餐会で感染してしまい、帰国直後から1週間の自宅療養を余儀なくされました。いまなお感染対策と研究交流の両立は想像以上に難しい、と身をもって実感した次第です。

今回のISDB大会を通じて、国際学会でしか味わえないアカデミックな興奮を経験することできました。この経験を日々の研究に還元し、よりよい科学をつくっていければと思っています。渡航を支援してくださいました日本発生生物学会関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
2022.12.08

岡田節人基金 ISDB海外派遣報告書 小野沙桃実(東京工業大学)

東京工業大学 生命理工学院
小野沙桃実(D1)
岡田節人基金 若手研究者海外派遣助成のご支援のもと、ポルトガルのサルガドスで開催された、第19回国際発生生物学会 (International Society of Developmental Biology; ISDB2021) にポスター発表で参加しました。
 
 国際発生学会は4年に一度行われる大きな学会で、去年開催予定のところを新型コロナウイルスの影響で延期された経緯から、名称はISDB2021となっています。5日間のレクチャー、シンポジウムに加え、なんとポスター発表は約400人もの研究者、学生が参加しており、国際学会の規模の大きさを実感しました。国内の発生学会で他に日本から参加する人を探したものの見つからず、当初は独りで渡航する予定でしたが、偶然10月からラボに赴任した河西助教もISDBに参加すると伺い、渡りに船ということでありがたく付いていかせていただくことになりました。
 博士課程1年目の私にとって、貴重な経験をいくつも得ることができたISDBへの参加は、大変意義深いものとなりました。まず、対面でのポスター発表は初めての経験でした。学部4年生で研究を始めてから1年足らずで、新型コロナウイルスの流行により対面学会は中止されたため、今までに参加したすべてのポスター発表はオンラインでした。オンラインでは、ポスター内容は口頭発表無しでも伝わることが重要ですが、対面でのポスター発表は、プレゼンで相手の理解度に合わせて説明することが、最も重要であることに気が付きました。英語でのプレゼンに不慣れであったというのありますが、大勢のポスター発表者がいる中でポスターに立ち寄ってくれる人を少しでも増やすことについて、もう少し工夫の余地があると感じました。今回のポスターセッションは1時間半と非常に短い時間しか与えられなかったため、どんなに頑張っても会場の端では5人ほどしか立ち寄ってもらえませんでしたが、ポスターセッション以外の時間にも、知り合った人に自分の研究内容を短く説明する機会は何回もありました。全くそのような場面を想定していなかったため、しどろもどろな説明しかできませんでしたが、そこで自分の研究課題の面白さについてよりプッシュできるようになると良いことに気付くことができました。
 また、このISDBは私にとって初めての国際学会でした。日本の学会は動物学会、進化学会、発生学会などへの参加経験から、ある程度雰囲気を掴めていたように思います。そこで、世界的にはどのような実験手法がトレンドなのか、また発生学に対してどのような視点でアプローチすることが評価されているのかを知りたかったため、ISDBへの参加は非常に楽しみでした。レクチャー、シンポジウムでは、誰もが興味を持つようなクエスチョンの立て方やプレゼントークの上手さを実感し、非常におもしろく、とても勉強になりました。日本語では、多少プレゼンが分かりづらくても母国語だからわかっていたこともあったのだと気が付き、日本の学会ではあまり意識してこなかった、クエスチョンの上手な立て方について意識することができました。また、思いがけない収穫は、世界中の博士学生やポスドク、またISDBに参加していた他の日本人研究者と知り合えたことです。ヨーロッパに住む学生はアクセスの良さからか気軽に学会に来ているような印象で、国を軽々と超えるフットワークの軽さに驚きました。さらには、国際学会に来るような学生は研究に全て情熱を注いでるものかと思いきや、それぞれ趣味を持っていて、プライベートも研究も颯爽と両立させていくスタイルに共感と憧れを覚えました。日本人研究者とは、かなり分野が離れている人もいたため、逆に国際学会のような場でもないと交流の機会が無かったと思います。国際学会に参加して、研究分野も価値観も視野が広がりました。
 博士課程1年というまだまだ未熟な段階で、このような大きな国際学会に参加した経験は非常に貴重で代えがたいものであると感じています。自分と同じくPhD取得のために研究を進める学生、PhDを取りたてでポスドク先を探す研究者やラボを持ったばかりの若いPIなど、様々な年齢層、キャリア層の人から話を聞くこと、アドバイスをいただくことができました。数年後には、自分にはどういう選択肢が存在し、どのようになりたいのか、具体的な研究者像がより明確になったように思います。この感動と情熱を糧に、これからも研究に邁進していきたいと思います。最後に、このような機会をくださった故岡田節人先生ならびに日本発生生物学会、関係者の皆様に感謝いたします。本当にありがとうございました。
2022.12.08

岡田節人基金 ISDB海外派遣報告書 浅倉祥文(理研BDR)

理化学研究所生命機能科学研究センター
浅倉祥文(博士研究員)
日本発生生物学会岡田節人基金若手研究者海外派遣助成をいただき、2022年10月16日から20日にポルトガル南部Algarve地方のSalgadosという町で開催された、19th International Congress of Developmental Biologyに参加しました。
 コロナウイルスCOVID-19感染症の世界的流行の影響が残る中での海外学会参加でしたので、その点についても経験したことを記載いたします。今後海外へ渡航される方の参考になれば幸いです。

【19th International Congress of Developmental Biologyについて】
 この会議は4年に一度開催されており本来は2021年に予定されていましたが、COVID-19感染症の影響のため1年延期となり、5年ぶりに開催された会議でした。会期中は午前中と夕方に口頭発表があり、昼食の時間を含めて三時間ほどがポスター発表というスケジュールでした。
 口頭発表は半分ほどが招待講演者の有名な先生方による発表で、あとの半分ほどは応募者から選ばれた方による発表でした。私は今回ポスターのみで応募したのですが、一体どのような方が口頭発表に選ばれるのか、次回以降に口頭発表に選ばれるにはどの程度の実績や研究内容が必要なのか、という点にも興味を持っていました。すると選ばれた方は若い方が多かったものの、研究室を主宰する立場にあり有名な学術誌に論文を発表したばかりの先生がほとんどでした。また招待講演者の先生方のお話は数十年の研究の積み重ねの上で新たな知見を議論しており、興味深い発表ばかりでした。こうした研究者になれるよう努力しよう、と思いを新たにしましたが、まだ道は長いようです。
 また会期全体を通じて、研究手法としてオルガノイドや数理・物理的な手法を用いた研究が多数発表されていたことが印象的で、新しい技術や新しい着眼点に基づく最先端の研究発表を多数聞くことができました。発表を聞きながら私の頭に浮かんだ疑問は多くが発表の中でデータと共に答えが与えられていたのですが、質疑応答の時間には、言われてみれば「なるほど」と思うような鋭い質問が多くなされ、対する発表者の方の答えもスマートで、短い時間の中で非常に内容の濃い議論が交わされていました。
 今回私は「Chromatin dynamics during collinear Hox gene expression」というタイトルでポスター発表を行いました。会期中、およそ400名がポスター発表を行っており、ポスター発表の会場は室温が上がるほどの熱気に包まれていました。そのため聞きたいポスターを探すのも、見つけて近くまで移動するのも一苦労という状態ではあったのですが、幸いにも発表時間の間ずっと、興味を持ってくださった方と議論することができました。ただ最も熱心に話を聞いてくださり様々な質問や提案をくださった方が、異なる発生ステージでほぼ同じ実験を予定してグラントをとったばかりだと去り際に教えてくださり、実は競争相手を見つけたので進捗状況に探りを入れる目的もあったのでは、と焦る場面もありました。しかしこうした議論の中で、研究成果の論文化までに必要な要素やさらなる発展の可能性が具体的に見えてきた点が大きな収穫でした。

【COVID-19感染症流行下での海外渡航について】
 2019年の年末ごろから本来の開催予定だった2021年にかけてはCOVID-19の影響から多くの学会が中止や延期となり、開催されてもオンライン会議が主という時期でした。しかし今回はポルトガルの会場で現地開催の会議に参加することができました。
 会議の開催された2022年の10月は、国内ではまだマスクを外して外出する人はほぼおらず、感染対策が国レベルで徹底されていましたが、経済活動とのバランスが議論されはじめた時期でした。例えば9月までは、日本入国の飛行機への搭乗前72時間以内のPCR検査で陰性を証明する必要があったのですが、この検査はワクチン接種回数が3回に満たない者のみと変更され、ワクチン接種が3回以上の者は入国前の検査が不要となりました。そのためニュースでは来日する観光客も増え始めていると言っていましたが、日本国内の空港では人はまばら、という状況でした。
 対してポルトガルや途中の飛行機の乗り継ぎで立ち寄った国では、空港は真っ直ぐ歩けないほどの人で混雑しており、飛行機内や電車中でもマスクをしている人は0.1%もいませんでした。その割には咳やくしゃみをしている人が多く居ましたが。また、利用した航空会社からは「日本出国前72時間以内のCOVID-19陰性証明を携行」するよう案内があったものの、携行していた陰性証明の提示を現地で求められることはなく、流行は終わったものとして扱われている印象でした。
 こういった状況下での学会参加でしたので、学会会場で会った日本人の方は皆さん3回のワクチン接種を済ませたと仰っていました。しかし私は2回目接種日から開けるべき日数のため3回目接種が間に合わず、帰国前の72時間以内の検査で陰性証明をする必要がありました。そのため万一のCOVID-19感染もカバーする海外旅行保険を契約し、さらにほとんどの航空会社で機内持ち込みが許可されているウェットティッシュ型の消毒用アルコールや大量のマスクを日本から持参し、感染しないよう注意しながらの学会参加となりました。会場では食事中にも議論が交わされている中、感染の可能性が気になって食事中は話をするのを躊躇ってしまい、今回の学会参加で心残りな点となってしまいました。
 また帰国用の検査のため、日本の指定の書式で結果を発行してくれる検査場を探したところ、ヨーロッパでは既に検査が必要な場面がほぼ無いためか、学会会場から50km離れた街まで行かないと検査が受けられませんでした。今回私は幸いにも、なんとか辿り着いた検査場で陰性証明が得られたのですが、今後の海外ではCOVID-19の検査が可能な場所を探すのも難しくなると思いますので、その点も下調べが重要だと思います。
 今後は日本でもCOVID-19の影響は緩和していくと期待したいですが、それまではワクチンを何度も打ち、マスクや手洗い、アルコール消毒などの感染対策を続けるのが得策なのだろうと思います。

【謝辞】
 最後に、今回の学会参加を後押ししてくださった所属研究室の森下先生と共同研究者の鈴木先生、そして日本発生生物学会関係者の皆様と故岡田節人先生に深く感謝いたします。貴重な経験を積ませて下さり、ありがとうございました。
2022.12.08

岡田節人基金 ISDB海外派遣報告書 鹿谷有由希(京都大学)

京都大学大学院理学研究科
鹿谷有由希(D5)
この度は、岡田節人基金海外派遣助成のもと、ポルトガルのサルガドスで開催されました第19回国際発生生物学会(ISDB)に参加させていただきました。

 私にとって今回が初めての国際学会であり、参加を決意するのにも随分と勇気を要しましたが、加えて開催地がサルガドスというポルトガルの首都リスボンから遠く離れた聞き慣れない場所であったため、一体どんな町なのか、ちゃんと辿り着けるだろうか、と期待と不安が入り混じったままバタバタと出国しました。途中ポルトガル国内の飛行機の乗り継ぎに遅れが生じたものの、丸一日かけて無事サルガドスのホテルに到着した時は、本当に来たんだなあ、と部屋で一人しみじみと思ったことを覚えています。
 今学会では、私はポスター発表を行いました。ポスター発表は学会二日目と三日目にそれぞれ一時間半ずつ時間が用意されており、私の発表日は二日目でした。19回大会は一年延期されたせいもあってか400近くのポスターがあり、ポスター会場の活気はすごいものでした。そんな中で自分のポスターにも人が来てくれるだろうかと不安な気持ちがありましたが、ポスターの前に立って少しすると一人二人と聞きに来て下さり、気付けばポスター発表の一時間半の間ほとんど休みなく話し続け、会場の熱気と緊張で全力疾走をした後くらい汗だくになっていました。聞きに来てくださった方は私と同じく腸管の研究をされている方が多く、私のたどたどしい英語にも丁寧に耳を傾け、色々と質問やアドバイスをして下さり、次はもっと活発な議論ができるようさらに努力しなければ、という思いを一層強くしました。
 また、ポスターを聞きに来てくれた方と翌日たまたま出会い一緒にお昼を食べたり、懇親会ではジャーナルの編集をされている方とお話をさせていただいたり、対面の学会ならではの楽しみがたくさんありました。学会会場は常に活気にあふれていて、そのあまりの賑わいに、私と話をしていた方のスマートウォッチが「危険な騒音です」とアラームを鳴らしたことが、今でもくすりと笑ってしまう思い出です。さらに休憩時間には、初めて見る大西洋に感動したり、カタプラーナという銀色の大きなどら焼きのような鍋で調理された郷土料理に舌鼓を打ったりと、出国前の不安は何処へやらすっかりポルトガルを満喫しました。

 今学会を通して、英語での発表の経験を得るだけでなく、世界トップクラスの研究者の発表と質疑応答を学んだり、自分と同年代の院生やポスドクと交流を深めたり、今後一人の研究者として生きていくために貴重な経験をさせていただきました。最後になりましたが、旅費をご支援いただきました日本発生生物学会関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
2022.09.14

岡田節人基金 海外派遣報告書 島田龍輝(熊本大学)

熊本大学発生医学研究所
染色体制御分野 助教 島田龍輝
米国バーモント州Mt Snowで8月13日から19日にかけて開催されたGordon Research Seminar (GRS)とGordon Research Conference (GRC); mammalian reproductionに参加しました。GRC; mammalian reproductionは生殖細胞や生殖巣、生殖器官の発生に関する研究者や医療関係者まで幅広く哺乳類の生殖に関わる人が集まるconferenceです。GRSはGRCに先立って行われる若手研究者によって行われる研究集会で、博士課程の学生やpostdocなど立場の近い研究者の発表・交流の場として開催されています。前回2018年の開催から、2020年に予定されていたconferenceが新型コロナウイルスによる開催中止になり、4年ぶりの開催であったことから、久しぶりの開催を心待ちにしていたようで200人近くの参加がありました。ポスターの数も通常は30-40程度の演題が発表されるようですが、今回は104の演題が発表されていました。新型コロナウイルス対策のためポスター同士を離れて配置するために、4グループに分けられ、1回当たり30のポスター発表が行われました。連日異なるポスターが掲示されるため、時間外にポスター前で議論するということはできませんでしたが、限られた時間内に多くの発表者と議論するために常にポスター前で熱心な議論が行われていました。
私は減数分裂の開始と細胞周期のS期を同調する分子機構と、その破綻がメス特異的に不妊につながるという最近の研究結果についてGRSでposter発表を行い、GRCでは口頭発表をしました。GRSでは多くの若手研究者と研究についての意見交換をして交流を深めることができました。GRCでは、スペースの関係からposter発表することができず、口頭発表も会の終盤だったため、当初は活発な交流が期待できないのではないかと危惧していました。しかしながら、参加者は若手からシニアに至るまで熱心で、発表時の質疑応答は時間いっぱいまで議論することができました。さらに発表後も多くの研究者に声をかけていただき、議論を深めることができました。
久しぶりの対面での国際学会で大きな収穫だったのは、多くの研究者と交流できた点です。本会は合宿形式であり、毎日3食の食事時などに、気軽に議論する機会を設けることができます。自身の進めている研究について、同様の現象に興味を持って研究を進めている研究者を食事の時に捕まえて、自身の研究計画について議論して意見をもらうことができました。その研究者とはその後も大会期間中を通して頻繁に議論をして、お互いの考えに理解を深めるとともに、後日改めてzoom meetingをするなど、今後も研究交流の機会を持つことを約束するに至りました。口頭発表をして、多くの人に顔を知ってもらう機会になったことはさることながら、それ以外の場所でも知見と交流を広げるために対面式のGRCに参加できたことは非常に有意義であり、岡田節人基金より補助を受けたことで、このような機会を設けることができたことにこの場を借りて御礼申し上げます。
自分がGRCに参加した当時には、日本は未だ海外からの帰国者にPCRなどによる陰性証明を義務付けていました。このことが積極的な研究交流に悪影響をおよぼしたことは否定できません。私は最初の数日、食事の場などで積極的に交流を持つことは避けるようにしていました。しかし、せっかくの対面であるのだから積極的な交流をしなければ、十分な成果を得られないと感じ、中盤以降には積極的に交流ことにしました。このことにより多くの研究者とリラックスした状態で様々な議論ができ一定の成果が得られたと感じます。on line meetingでは発表者との議論は発表時に限られていますが、on siteではいつでも発表者を捕まえて、個人的な議論を持つことができるため、特に若い研究者のキャリア形成において重要な経験であると感じました。幸運にも私は陰性であることが証明され、予定通り旅程を終えることができました。現在は規制が緩和されることで、日本から国際学会に参加しやすい状況になってきました。国際学会で、発表や研究交流を行うことは若手研究者が交際的に研究を展開するうえで非常に有用であるため、今後はさらに積極的に国際学会に参加し、研究領域の開拓や領域をリードするような研究者と慣れるように、今後も努力していきます。
2022.08.03

岡田節人基金 海外派遣報告書 Flore Castellan(東京大学)

東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻
特任研究員
Flore Castellan
FOCIS 2022 conference (San Francisco) Outcome report

The FOCIS (Federation of Clinical Immunology Societies) meeting focused on translational immunology with participants ranging from molecular biologist to clinicians. It was the perfect place for crossdisciplinary exchanges of ideas to apply our new developmental biology knowledge of maternal cells to their human medical implications and I am grateful to the JSDB in supporting my participation to this meeting.

At the conference, I presented by oral and poster presentations the findings of my recently completed doctoral studies. Our research focused on revealing the nature and roles of maternal cells in pups, and we observed a potential role of maternal cells to prevent adverse immune reactivity in the neonates. On the other hand, potential human clinical involvement of maternal chimerism have been indicated by the research led by Dr. Toshihiro Muraji on the incidence of maternal cells in the congenital disorder biliary atresia. Further translational research is needed to bridge this developmental biology knowledge of maternal cells and their clinical consequences.

At FOCIS, my presentations caught the interest of both medical doctors and scientists lead of medical database repositories, curious of the detectability of maternal cells in publicly available single cells datasets, opening the door to potential interdisciplinary collaborations.

In terms of career development, I had the opportunity to meet professors looking for postdoctoral fellows, and received an offer to join NYU Langone Health where I will be working from next January.

Finally, attending the pre-meeting courses and targeted workshops was very valuable for learning more about the proper methods and pipelines to analyze the immunophenotyping data I collected. In particular, the tools I was introduced to to combine CyTOF data from different batches were directly applied to the data in the paper we will be submitting to an international journal this month.
Photo 1: Poster presentation.
Photo 2: Oral presentation.
Photo 3: Poster presentation sideby- side another UTokyo alumni.
Photo 3: Poster presentation sideby- side another UTokyo alumni.
Photo 3: Poster presentation sideby- side another UTokyo alumni.
2021.07.09

第54回日本発生生物学会大会・キャリア支援ランチョンセミナー開催報告

2021.7.7
筑波大学・生存ダイナミクス研究センター
林 良樹
第54回大会の開催にあわせ、6月18日の12時より、第3回キャリア支援ランチョンセミナーが開催されました。今回のセミナーでは“イノベーションはなぜ途絶えたか-科学立国日本の危機-”の著者であります山口栄一先生(立命館大学教授・オルバイオ(株)代表取締役・京都大学名誉教授)をお招きし、お話を伺いました。オンライン開催という特徴を活かし広く参加者を募った結果、民間企業や海外在住者を含む170名を超える方々が来聴され、この問題に対する興味の高さを痛感しました。
 山口先生は上述の著書の内容をわかりやすく解説されるのみならず、数年前の御出版から現在に至るまでの大きな動き(新型SBIR制度の施行、ご自身が主体となる企業等)まで含めてご紹介くださりました。この様なタイプの本が多くの場合情緒的である中で、徹底した“データに基づく解釈・証明”が提示され、また米国のイノベーション危機における基礎学問として “生命科学”の貢献の大きさに心を震わされる思いでした。また山口先生は、新型SBIR制度の実施やご自身による企業に見られるように、解説に止まらない“実践”の人である点もとても感銘を受けるとともに勇気をもらえるものでした。ディスカッションはオンライン越しにも熱を感じるくらいに白熱し、ランチョンとしては異例の時間延長(終了は次のセッションの5分前!)となりました。この様な素晴らしい会にしてくださった山口先生、そして来聴者の方々に感謝いたします。
 セミナーの内容は質疑応答を除いて、学会ウェブページから配信しております。もしお見逃しの方はそちらをご視聴ください。また山口先生が立命館大学において新たに立ち上げられたプロジェクト(REMIX)については、学会ウェブページで順次周知させていただく予定です。こちらもぜひよろしくお願いいたします。
 
 キャリアパスセミナー動画は、こちらをクリックしてください。
2019.09.24

夏季シンポジウム2019 参加報告書 矢ケ崎怜(京都大学)

京都大学理学研究科
修士課程2年 矢ヶ崎 怜
9月2日から4日にかけて日光・両生類研究所で行われた夏季シンポジウムに参加させていただきました。
院生向けの夏季シンポジウムだと聞いた瞬間、行くことを決めました。口頭発表をしたことがなかったため、良い練習になると考えていました。この段階での私の目的は、口頭発表の経験を積むこと、自分の研究についてアドバイスいただくことでした。しかし、実際にはもっと多くのことを体験し、吸収することができました。
一つ目は参加前の準備です。参加決定以降、改めてこれまでの研究を振り返り、どういう発表するかを考えました。日々目先のデータに囚われていましたが、もう一度研究の目的そしてデータを見つめ直す良いきっかけになりました。
二つ目はシンポジウム期間を通していただいた多くのアドバイスです。当初、私は自身の研究へのアドバイスをいただくことばかり考えていましたが、ここでいただいたアドバイスは多岐にわたっていました。例えば、スライド作成や発表の流れ、研究の伝え方、そして今後研究者としてどう研究をしていくべきか、どうしたら面白い研究ができるかなどです。三日間一緒に過ごす、このシンポジウムだからこそ、いただけたアドバイスだと思っています。
そして、三つ目はこの出会いです。普段お会いすることのできない先生方や同じ学生の皆さんにお会いし、話すことができ、たくさんの刺激を受けました。また最終日の両生類研究所で行われている保護活動の視察では、サンショウウオをみんなで夢中になって捕獲しました。先生や学生関係なく、ただ生物が好きなメンバーで過ごした、楽しい思い出です。
次回お会いする際には、成長した姿が見せられるよう、研究に励みたいと思います。

最後になりましたが、このような機会を設けていただいた運営側の方々に心より感謝申し上げます。