2025.05.26

第1回Evo-Devo若手研究会 参加報告書 古本知奈美(神戸大学)

神戸大学
古本知奈美
私は、昆虫の形態が多様化した要因に迫る研究がしたいと考えています。昆虫の形態の進化要因について、その機能や系統的要因、適応的要因が明らかにされてきた研究は多くみられます。一方で、至近的要因を明らかにした研究は少なく、進化過程を考察するためには、昆虫の形態に関与する形態形成過程や遺伝的基盤の解明をすることが急務だと考えています。
そこで、修士学生から進化発生学を勉強し始めました。2025年の2月に修士論文を提出するまでの過程で感じたのは、日本には進化発生学を重要視している研究が少ないのではないかということでした。私の所感ですが、細胞動態や分子レベルの発生過程の記載が足らないまま、形態に関わる適応的要因と遺伝的基盤だけが明らかにされつつある研究が多くみられると感じています。もちろん研究は日進月歩なので、解明できるところから漸次的に解決していくことが重要だと思いますが、広く発生過程を解明し、種間比較するような研究が増えると、より深い議論ができると考えています。そのような現状において、進化発生学に着目し、遺伝子から分子、発生、系統まで多くの分野の若手研究者が参加するような本集会は、とても魅力的に感じます。
私は体調不良で1日目しか参加できなかったのですが、本研究会の良い点は2つあると考えています。1つ目は、若手研究者の人脈が広がった点です。本研究会は、学部生からポスドク、研究者の方まで多くの年齢層の方が参加されていました。その中でも、自分の年齢と近い方と議論する機会が多かったことがとてもありがたかったです。1日目のポスター発表やコーヒーブレイクでは、距離が近い中で複数人と研究についてディスカッションすることで、自分の研究の立ち位置や、発生学の視点から見た研究の欠点を指摘して頂き、とても勉強になりました。そのような距離感でお話しできたからか、研究会が終わっても連絡を取り合う同年代の友人ができたことがとても嬉しかったです。今後も同年代の研究に関わる方々と切磋琢磨しようと思える良い機会でした。2つ目は、進化発生学について今一度よく考える機会を得たことです。研究というのは、基本的に一人で計画し、実験し、結果をまとめるため、視野が狭くなりがちだと考えています。しかし、多くの研究に携わる人と話すと、研究のモチベーションから、自分の分野の認識まで、思っているよりも大きな違いがあると感じます。私は、次世代シーケンサーなどの技術革新を経て、遺伝子発現解析が重要だと考えている方が多いのだと考えていました。しかし、slackでの議論を読んでいると、「発生システムはどのように進化してきたか」のチャンネルでは、発生過程の中でも細胞動態に注目したいという意見が出たようで、とても共感しました。また、他チャンネルの新奇形質の定義についても、適応的意義や形態の機能における類似性にまで議論が及んでおり、多くの分野の研究者が集まって議論することで、分野の重要な単語の定義を再検討することの重要性を感じました。このような問いは、専門的な研究を突き詰めるほど盲点になる部分だと感じているので、研究会のslackでの議論が落ち着いてからも、継続的に考える必要性を強く感じました。
研究者の交流会として、また、学問の再検討をする機会としても、またこのような会があれば参加させて頂きたいです。とても良い会を開いて頂き、ありがとうございました。