2023.04.07

海外便り№17 佐奈喜-松宮舞奈さん (European Molecular Biology Laboratory)

佐奈喜-松宮舞奈 (European Molecular Biology Laboratory)
はじめまして、スペイン、バルセロナにあるEMBL (European Molecular Biology Laboratory)でポスドクをしている松宮舞奈です。はじめに、大澤先生、丹羽先生、執筆の機会を頂きありがとうございます。

経歴
学部時代では、静岡大学の小池亨研究室で胆管上皮細胞に特異的に発現する遺伝子の機能解析に関する研究を行っていました。いろいろと勉強する中で骨形成に興味がわき、 京都大学大学院の影山龍一郎研究室(現在、理研CBS)にて修士課程と博士過程の合計5年間を過ごし、脊椎や肋骨の元となる“体節”の形成を研究してきました。2019年に博士号を取得し、ポスドクとしてEMBLバルセロナの戎家美紀研究室に参加し、5年目が始まったところです。体節形成の研究内容に興味のある方は下の論文を読んでみてください。
マウスES細胞から体節形成過程をin vitroで再現した研究
ES cell-derived presomitic mesoderm-like tissues for analysis of synchronized oscillations in the segmentation clock (2018) Development
ヒトiPS細胞から体節形成過程を再現したオルガノイド研究
Periodic formation of epithelial somites from human pluripotent stem cells (2022) Nature Communications
その他の論文は(https://orcid.org/0000-0002-4824-304X)です。

EMBLバルセロナはどんな所?
EMBLは27の加盟国からのサポートを受けEU内に6か所 (Barcelona, Grenoble, Hamburg, Heidelberg, EBI Hinxton, Rome) の研究施設をもっています。その中のEMBLバルセロナは2017年に設立され、組織生物学と疾患モデルに焦点を当てた研究を行っています。研究所自体はPRBB (Parc de Recerca Biomèdica de Barcelona) という、いくつかの研究所が入居している複合施設の中にあり、目の前は地中海に面したビーチです。夏になると施設全体でビーチバレーボール大会が行われ、EMBLだけでなく多様なバックグラウンドを持つ研究者と交流があります。
海外の研究室に行った経緯
この文章を読んでいる方の多くは、海外の研究室に行きたい!!海外のこのラボに行きたい!!と思い、情報を探し、いくつか受け入れ先を探し、連絡をし…という方が多いでのはないでしょうか。これまでの体験談の方々と真逆といっていいほど “運”で海外の研究室に来た私の経験がどこまで役に立つかはわかりませんが、、、事実を書いていきたいと思います。
私の場合は、ありがたいことに卒業1年前の2018年に筆頭著者論文を出すことが出来ました。そして、このタイミングで分子生物学会に参加したことが大きなポイントでした。学会から数日後、当時、理研に所属していた戎家美紀先生から学会のWeb交流サービスを通じて『2019年にEMBLバルセロナに移動するためポスドクを探しているが、卒業後の行き先は決まっていますか?』という連絡がありました。ぽやーーーと生きてきた私にとって、とてもありがたい提案で、『卒業後の行き先は決まっていません、是非行きたいです』と返事をしました。しかし、『フェローシップを自身で取得する必要があり、フェローシップが終わった後そのままいられるかの保証はない。』ということでした。戎家研究室で新規の実験系を立ち上げるポスドク採用の話だったので何の期間が決まっていないということは不安が大きかったですが、フェローシップを取れれば卒業後の行き先が決まる!というモチベーションで申請書の作製に真剣に取り組みました。無職かポスドクかの究極の選択です。海外学術振興会の海外特別研究員は落ちてしまいましたが、ありがたいことに、いくつか製薬会社のフェローシップに採択して頂くことが出来ました。その中でも2年間貰える第一三共生命科学研究振興財団の海外留学奨学研究助成金をもらい、2019年4月バルセロナへウキウキ向かいました。1年半後、コロナでロックダウンしている中、海外学術振興会の海外特別研究員に再挑戦し、2年間のフェローシップを貰いました。渡航先と金額との相談にはなってしまいますが、製薬会社のフェローシップは日本にいるときでないと出せないので、もし長期を目指すなら、まずは製薬会社のフェローシップを貰ってから海外学振に応募するのをお勧めします。

スペインでの生活
海外に行った経緯が役に立つかわからないので、せめて生活面での経験だけでも役に立てるといいなと思い少し長めに書いてみます。
まず皆さんが海外に移動するとなると治安の良しあし、生活費に関して、特に気になるのではないでしょうか。心配していましたが、バルセロナは思っていたより治安がいいなと思いました。しかし、“気を付けていれば”です。夏になれば公園で爆竹と花火を片手に騒いでいる集団もいますし、まちなかで薬物の匂いもします。同僚は朝方3-4時に路地を歩いていたら首絞め強盗に会い、かばんもお財布も盗まれる事件に遭いました。他の同僚は、メトロで手に持っていた携帯を奪われたり、財布や携帯をすられたりしています。私は、ジャケットのポケットに入れていたミニタオルを盗まれました。ボロボロだったけどお気に入りだったので少し悲しかったです。バルセロナに限らずどの国に行くとしても、夜遅くに出歩かない、警戒しているふりをするだけで減らせる危険は多いと思います。やたらキョロキョロしてあるくのは、おススメです。
バルセロナの食べ物はとてもおいしいです。外食すると日本より高くなってしまいますが、スーパーに行けば、野菜やお肉は日本よりかなり安く手に入るので、自炊すれば快適な生活が送れます。スペインには米料理であるパエリアがあるので、スーパーで売られているお米も種類が豊富で、日本で食べるお米と遜色ないと思います。しかし残念ながら魚は生臭いことが多く、サーモンとマグロ以外はあまりお勧めしません。ただ、スペイン料理といえばほとんどトマトで煮られることが多いのですが、日本風の調理では生臭かった魚もトマト缶で煮込むとおいしくなるので、郷土料理はその地に合った最適な料理方法なのだなと改めて実感しました。
家賃は少し高めで、1人暮らしの部屋で10-15万円くらいです。京都や東京の家賃くらいでしょうか。ヨーロッパではよくあることですが、ほとんどの家は家具家電付きなので、身ひとつで移動できるのがとてもいいところです。しかし外国人(特にヨーロッパ以外)が長期の家を借りるのは少し難しく、3か月分の銀行口座残高証明を求められます。日本の残高証明は受け付けてもらえないこともあるので、はじめは短期の賃貸(11か月まで) を借りるのが安心だと思います。ただ不動産屋や大家さんによって独自ルールがあるので、良い大家さんに出会えるとすぐに長期の家も借りられるようです。私は会えませんでした。地震がない国なので、5階建ての建物全体が傾いているなど、え!?この家を貸すの!?と思うクオリティの家にも遭遇します。私は3年間で既に4回引っ越しをしているのですが 、2つ目の家は部屋が最大5度傾き、椅子に座ると倒れるほど。もちろん床においた瓶はコロコロ転がります。1個目の家がとても良かったので、仲介業者のとてもいい部屋だよという言葉を信じて内見もせず契約してしまった大失態で、さすがに1か月で引っ越しました。賃貸の契約時には、家賃だけでなく仲介料などお金がかかるので、内見は大切という言葉が身にしみました。3つ目の家は、ようやく長期の家を契約できたのですが、建物が古すぎて気温によって窓枠の木が膨張するので、窓が閉まったり閉まらなかったり。修理に来た人は素人で、窓枠を削りすぎて隙間風がつねに吹き込むように。こんなこともあるのかと勉強になりましたが、コロナで不動産屋が倒産しこの部屋は退去することになりました。これまでの経験や、コロナで家賃が下がったタイミングでもあったことから、4年目にして現在の家に出会え、ようやく安定した快適な住環境を手に入れました。バルセロナでは、毎年更新される地価に連動して賃貸料が見直されます。最近、地価が上がった影響で4%家賃も上がりましたが、これ以上引っ越すことはないです(たぶん)。

まとめ
私は良いことが積み重なった結果、バルセロナでポスドクをしていますが、今になってよくよく考えると、戎家美紀先生とお話ししたこともなく、どんな人かも全く分からない中、よく行きたいですと返事したものだなと思います。当時も周りからは結構驚かれました。が、いい機会だしとりあえずやってみよう!と思ってふみだした結果、バルセロナでポスドクができたことはとても大きな財産となり、誘ってくださった戎家美紀先生には本当に感謝しています。しっかり考えると不安が増えてきてしまうので、まずは行動するのもいいと思います。
海外に行くことの心配は多いかもしれないけど、意外と心配するほど大きな問題はなく進んだりするものです。心配してやらないよりは、やってみた方が数倍もいい経験になると思います。人生一度しかないので、自分の思うまま、好きなように、楽しく過ごしてください!!