2022.12.21
DGD編集主幹を終えるにあたり
2022年12月
DGD編集主幹 平良眞規
DGD編集主幹 平良眞規
「DGD編集主幹の就任の挨拶」を書かないまま、「DGD編集主幹を終えるにあたり」を書くことになってしまいました。それは、一つはDGDの改革を行なっていましたので、それが一段落してから挨拶したいと思っていたところ、予想以上に時間の経過が早かったこと、そしてもう一つは筆不精ということだと思います。最後に、この3年間でのDGDの改革内容を皆様にお伝えしたいと思い、筆を取りました。
2019年の夏頃に2020〜2022年の3年間の予定で編集主幹(以下Editor-in-Chief: EiC)を拝命することが決まったとき、「DGDが学会誌として学会員から投稿したいと思えるジャーナルになるにはどうしたら良いか」を考え、2つの改革を行いました。1つ目は、Editorial Boardを名目上のものではなく、JSDB会員および海外の研究者がEditorとなって査読プロセスを行う実質的なEditorial Boardとして組織することです。そのためEiCをサポートする機関としてまず「編集会議」を組織し(第一期編集会議:私を入れてメンバー4名)、その後メンバーの入れ替えで第二期編集会議(メンバー6名)を組織して、具体案の作成を行い、Editorの役割を名文化して投稿論文のハンドリングと招待論文の依頼を行うことを業務として取り決めました。そして、それに同意する30名以上の中堅と若手の研究者を国内外から集めて、広く発生生物関連の分野を網羅するEditorial Boardを組織することができました。それにより投稿者が自分の研究分野に合ったEditorや自分の研究を理解してもらっている知り合いのEditorを指名することで安心して投稿ができるようになりました。また投稿前にEditorとコンタクトを取って原著論文の内容を相談したり総説の投稿を提案して認められれば投稿したりすることが可能となりました。このシステムは投稿者にとってメリットがあるだけでなく、Editorを初めて経験する研究者にとっても査読プロセスを理解する機会を得ることができるというメリットがあると考えています。またEditorial boardに関連する研究者からの投稿を呼び込む狙いも軌道に乗ってきています。
投稿を促進する2つ目の改革として、投稿者のニーズに合った論文タイプを新たに設置し、かつそれを広めるための特集号を企画しました。従来はResearch ArticleとReview Articleの2種類だけでしたが、特集号”Methods and Protocols”の出版に向けてMethod、Protocol、Technical Notesを設置し、特集号“Versatile Utilities of Amphibians”ではShort Research Articleを設置して数多くの原著論文を得ました。他に Resource、Historical Review、Mini Reviewも加えました。これらの中から皆様の目的にあった論文タイプを選び是非投稿してください。発生生物学会の総会で「DGDを若手研究者の登竜門としてご活用してください」と繰り返し述べましたように、修士論文や博士論文をDGDに投稿して研究者人生の最初の原著論文を発表する、あるいは超一流雑誌に発表した原著論文を核として研究人生初の総説をMini Reviewとして書いてみる、などは如何でしょうか。
さて、EiCとしての編集業務と、私自身もEditorとして査読プロセスを行なってみて初めて気がついたことが幾つもありました。EiCはまず投稿論文の事前チェックを行って査読に回すかリジェクトするかを決めます。それを最初に行い出して気がついたことは、miRNA関連の似たような論文が幾つも投稿されてくることです。そしてそれらが偽造論文(papermill products)として出版業界を揺るがし始めていることを知りました。EiCとしてこの偽造論文を見定めてリジェクトすることは必須であり多大な労力を費やしましたし、今も時々投稿されてきていますので気が抜けません。EiCのもう1つの業務はEditorによってアクセプトされた論文の最終チェックです。そこで認識したのは、アクセプトされた論文の完成度のばらつきが大きいことでした。これについてはいろいろな要因がありますが、第一には投稿時の論文の完成度(つまり著者による事前チェックの度合い、研究者間でのcritical readingの有無、英文校正の有無)ですが、その後の査読者のチェックの質と量、Editorのチェックの質と量、も大きく影響します。それらのチェックを済ませてきたものをEiCが見るわけですが、それでも科学的な記述の間違いや英語の間違いが半数以上の論文で見つかります。この問題にEiCはどう対処すべきかが編集会議で大きな議論となり、また理事会でも議論となりました。何故これが大きな議論になったかと言いますと、これまでのDGDの「売り」として「迅速な査読プロセス」を標榜していたことにあります。しかしこの「迅速な査読プロセス」と「論文の質(完成度)の向上」とを両立させることは難しい問題でした。「迅速な査読プロセス」を強く主張する意見では、アクセプトになった論文は仮に科学的に不備の記載の部分があったとしてもそれは著者の責任であり、査読プロセスはきちんと経ているので手続き的には問題なく即座に印刷に送るべき、となります。一方私は、DGDが世界に通用する日本の雑誌であるとJSDB会員が誇れるものにするには「論文の質(完成度)の向上」は欠かせないという立場でした。これはDGD Editorial Boardで議論する課題ではありますが、JSDB会員の皆様にとってDGDをどのような雑誌にしたいかという本質的な問題でもあります。
この3年間いろいろありましたが、DGDの論文の質は格段に良くなっていると自負しています。また以前は掲載論文の多くは総説でしたが、ここ1、2年は原著論文が数多く出版されていることも大きな変化です。そして2021年のImpact Factorはついに3を超えました。これは幾つかの好条件が重なったことで達成したと考えられますので、今後も上がった下がったで一喜一憂するものではないのですが、めでたい事には変わりません。
最後に、2019年の夏から始めましたDGDの改革に多大なご協力をしていただきました多くの方々に深く感謝申し上げます。特に第三期編集会議メンバーとして私を支えてくださいました鈴木孝幸博士と池谷真博士、並びにassistant editorとして多大なるご協力をくださいました近藤真理子博士に深く感謝申し上げます。今後もDGDのさらなる発展を祈念して筆を置きます。
2019年の夏頃に2020〜2022年の3年間の予定で編集主幹(以下Editor-in-Chief: EiC)を拝命することが決まったとき、「DGDが学会誌として学会員から投稿したいと思えるジャーナルになるにはどうしたら良いか」を考え、2つの改革を行いました。1つ目は、Editorial Boardを名目上のものではなく、JSDB会員および海外の研究者がEditorとなって査読プロセスを行う実質的なEditorial Boardとして組織することです。そのためEiCをサポートする機関としてまず「編集会議」を組織し(第一期編集会議:私を入れてメンバー4名)、その後メンバーの入れ替えで第二期編集会議(メンバー6名)を組織して、具体案の作成を行い、Editorの役割を名文化して投稿論文のハンドリングと招待論文の依頼を行うことを業務として取り決めました。そして、それに同意する30名以上の中堅と若手の研究者を国内外から集めて、広く発生生物関連の分野を網羅するEditorial Boardを組織することができました。それにより投稿者が自分の研究分野に合ったEditorや自分の研究を理解してもらっている知り合いのEditorを指名することで安心して投稿ができるようになりました。また投稿前にEditorとコンタクトを取って原著論文の内容を相談したり総説の投稿を提案して認められれば投稿したりすることが可能となりました。このシステムは投稿者にとってメリットがあるだけでなく、Editorを初めて経験する研究者にとっても査読プロセスを理解する機会を得ることができるというメリットがあると考えています。またEditorial boardに関連する研究者からの投稿を呼び込む狙いも軌道に乗ってきています。
投稿を促進する2つ目の改革として、投稿者のニーズに合った論文タイプを新たに設置し、かつそれを広めるための特集号を企画しました。従来はResearch ArticleとReview Articleの2種類だけでしたが、特集号”Methods and Protocols”の出版に向けてMethod、Protocol、Technical Notesを設置し、特集号“Versatile Utilities of Amphibians”ではShort Research Articleを設置して数多くの原著論文を得ました。他に Resource、Historical Review、Mini Reviewも加えました。これらの中から皆様の目的にあった論文タイプを選び是非投稿してください。発生生物学会の総会で「DGDを若手研究者の登竜門としてご活用してください」と繰り返し述べましたように、修士論文や博士論文をDGDに投稿して研究者人生の最初の原著論文を発表する、あるいは超一流雑誌に発表した原著論文を核として研究人生初の総説をMini Reviewとして書いてみる、などは如何でしょうか。
さて、EiCとしての編集業務と、私自身もEditorとして査読プロセスを行なってみて初めて気がついたことが幾つもありました。EiCはまず投稿論文の事前チェックを行って査読に回すかリジェクトするかを決めます。それを最初に行い出して気がついたことは、miRNA関連の似たような論文が幾つも投稿されてくることです。そしてそれらが偽造論文(papermill products)として出版業界を揺るがし始めていることを知りました。EiCとしてこの偽造論文を見定めてリジェクトすることは必須であり多大な労力を費やしましたし、今も時々投稿されてきていますので気が抜けません。EiCのもう1つの業務はEditorによってアクセプトされた論文の最終チェックです。そこで認識したのは、アクセプトされた論文の完成度のばらつきが大きいことでした。これについてはいろいろな要因がありますが、第一には投稿時の論文の完成度(つまり著者による事前チェックの度合い、研究者間でのcritical readingの有無、英文校正の有無)ですが、その後の査読者のチェックの質と量、Editorのチェックの質と量、も大きく影響します。それらのチェックを済ませてきたものをEiCが見るわけですが、それでも科学的な記述の間違いや英語の間違いが半数以上の論文で見つかります。この問題にEiCはどう対処すべきかが編集会議で大きな議論となり、また理事会でも議論となりました。何故これが大きな議論になったかと言いますと、これまでのDGDの「売り」として「迅速な査読プロセス」を標榜していたことにあります。しかしこの「迅速な査読プロセス」と「論文の質(完成度)の向上」とを両立させることは難しい問題でした。「迅速な査読プロセス」を強く主張する意見では、アクセプトになった論文は仮に科学的に不備の記載の部分があったとしてもそれは著者の責任であり、査読プロセスはきちんと経ているので手続き的には問題なく即座に印刷に送るべき、となります。一方私は、DGDが世界に通用する日本の雑誌であるとJSDB会員が誇れるものにするには「論文の質(完成度)の向上」は欠かせないという立場でした。これはDGD Editorial Boardで議論する課題ではありますが、JSDB会員の皆様にとってDGDをどのような雑誌にしたいかという本質的な問題でもあります。
この3年間いろいろありましたが、DGDの論文の質は格段に良くなっていると自負しています。また以前は掲載論文の多くは総説でしたが、ここ1、2年は原著論文が数多く出版されていることも大きな変化です。そして2021年のImpact Factorはついに3を超えました。これは幾つかの好条件が重なったことで達成したと考えられますので、今後も上がった下がったで一喜一憂するものではないのですが、めでたい事には変わりません。
最後に、2019年の夏から始めましたDGDの改革に多大なご協力をしていただきました多くの方々に深く感謝申し上げます。特に第三期編集会議メンバーとして私を支えてくださいました鈴木孝幸博士と池谷真博士、並びにassistant editorとして多大なるご協力をくださいました近藤真理子博士に深く感謝申し上げます。今後もDGDのさらなる発展を祈念して筆を置きます。