2018.10.25

岡田節人基金 海外派遣報告書 羽田優花(東京大学)

東京大学大学院 医学系研究科
分子細胞生物学専攻(代謝生理化学分野)
博士課程1年 羽田優花
<はじめに>
今回私は、岡田節人基金若手研究者海外派遣助成をいただき、10月10日のワークショップと、10月11日~13日の第12回GfE Schoolから成る日独合同若手ミーティングに参加した。初めてのヨーロッパ、初めてのドイツだったので出発前から心躍る思いと緊張感があった。異なる都市間の移動に不安もあったが、森本先生をはじめ他の先生方や参加者のおかげで複雑な路線を間違えることもなく行動することができた。今回、Max PlanckでのワークショップとGfEミーティングを含む全日程の中でTubingenとGunzburgとMunchenの3都市を回った。どの都市でも何百年も前に建てられた石造りの建物が一部改築されて未だに市民の生活の場として使われていることに驚いた。GfEミーティングの会場もUlm大学が所有する古城であり、大広間の絵画や見張り台からの景色を見てタイムスリップしたような心地を覚えた。

<ワークショップ>
Max PlanckのPatric Muller先生の研究室を訪問した。参加した日本人約10名が3組に分かれ、コンフォーカル顕微鏡を用いたFRAPのイメージングの体験、Light sheet顕微鏡を用いたゼブラフィッシュ胚の4Dイメージングの体験、ゼブラフィッシュの飼育場の見学をし、その後Pythonを用いたプログラミングを体験した。私にとっては見たこともない顕微鏡装置や施設ばかりで非常に刺激的であった。また、日の光が差し込み開放感あふれる研究棟内の美しさにも感動した。

<GfE School>
イメージングと数理モデリングというテーマで開催され、全体の参加人数は60名弱であった。30のトーク発表と22のポスター発表があり、1日目と2日目は朝の9時から夜の8時半までトークセッション、その後日付を超えるか超えないかくらいまでポスターセッションという、パワフルで密なスケジュールだった。

3Dまたは4Dでのイメージングが可能で、かつ、遺伝学的手法が使えるゼブラフィッシュやショウジョウバエをモデル生物とした研究や培養細胞を用いた研究が多くみられた。ニワトリ胚を用いたイメージングの話も聞けるかと思っていたが、ほとんどなかったのは意外で、少し残念だった。
私は胚操作後も生きたまま観察が可能な鳥類胚を用いて心臓発生についての研究をしており、羊膜と由来が同じ領域から心臓に寄与する新規細胞系譜に着目した解析についてポスターで発表した。細胞追跡のためにイメージングを試みているが、ニワトリ胚の大きさが大きすぎることもあって細胞1つ1つに着目した動きまでは観察できておらず、他の発表者のデータと比べて解像度の違いにため息が出た。また、私は分化過程の解析には主にシングルセルトランスクリプトーム解析を用いているが、この手法を用いた発表がほとんどなかったので、あまりなじみがないであろう人たちが私の研究についてどのような意見を持つのか、不安と興味があった。全体的には好意的な意見をいただくことができたが、今回初めて話した人からの新鮮な意見をきいて、初心に立ち返り本当に面白いと思う現象は何かを考えると、まだ見ていないこと、見るべきことが多くあることに気付かされた。
日独問わずイメージングを行っている研究者の発表では、目的をぼんやりした大きなものではなくて、ある具体的な現象の理解に定めたうえで、画像から得られた情報を深く追求することで論理を提唱していく姿勢が印象的で、非常に美しい論理展開が繰り広げられていた。私自身の研究でも、1つの現象についてとことん観察することで見えてくることがまだ多くあるような気がした。

ドイツ側からのGfEミーティング参加者はドイツの研究機関に所属している人はもちろん、チェコ、スイスなどの近隣国やカナダの研究機関に所属している人もいた。チェコから来た方の参加動機を尋ねたところ「近藤滋先生の話を聞くため」とのことだった。これまで日本とのジョイントミーティングは滅多になく、実際に話を聞くことができるのは貴重な機会だからと言っていたが、私はわざわざ国を超えてまで参加するのかと驚いてしまった。一方、別の参加者から、「ヨーロッパ諸国では頻繁にジョイントミーティングが開催されるが、アジア諸国はどうか」と聞かれた。私自身はアジア諸国のミーティングに参加した経験がなく、たとえアジアであっても日本国内ではない学会に参加することには少しハードルを感じてしまう。しかし、もしかしたらヨーロッパの人たちにとってヨーロッパ内でのミーティングに参加することはごく自然なことなのかもしれないと思った。自分の視野の狭さを思い知るとともに、彼らの情報収集能力と勉学への熱意、また、英語を母国語のように操る、密な情報交換の現場に圧倒される思いがした。

<謝辞>
このような貴重な体験をさせていただいき、本ミーティングを企画してくださった発生生物学会の先生方や関係者の皆様、そして故岡田節人先生に心より感謝申し上げます。来年の京都・大阪での日独合同ミーティングの成功も祈っております。