2022.12.08

岡田節人基金 ISDB海外派遣報告書 小野沙桃実(東京工業大学)

東京工業大学 生命理工学院
小野沙桃実(D1)
岡田節人基金 若手研究者海外派遣助成のご支援のもと、ポルトガルのサルガドスで開催された、第19回国際発生生物学会 (International Society of Developmental Biology; ISDB2021) にポスター発表で参加しました。
 
 国際発生学会は4年に一度行われる大きな学会で、去年開催予定のところを新型コロナウイルスの影響で延期された経緯から、名称はISDB2021となっています。5日間のレクチャー、シンポジウムに加え、なんとポスター発表は約400人もの研究者、学生が参加しており、国際学会の規模の大きさを実感しました。国内の発生学会で他に日本から参加する人を探したものの見つからず、当初は独りで渡航する予定でしたが、偶然10月からラボに赴任した河西助教もISDBに参加すると伺い、渡りに船ということでありがたく付いていかせていただくことになりました。
 博士課程1年目の私にとって、貴重な経験をいくつも得ることができたISDBへの参加は、大変意義深いものとなりました。まず、対面でのポスター発表は初めての経験でした。学部4年生で研究を始めてから1年足らずで、新型コロナウイルスの流行により対面学会は中止されたため、今までに参加したすべてのポスター発表はオンラインでした。オンラインでは、ポスター内容は口頭発表無しでも伝わることが重要ですが、対面でのポスター発表は、プレゼンで相手の理解度に合わせて説明することが、最も重要であることに気が付きました。英語でのプレゼンに不慣れであったというのありますが、大勢のポスター発表者がいる中でポスターに立ち寄ってくれる人を少しでも増やすことについて、もう少し工夫の余地があると感じました。今回のポスターセッションは1時間半と非常に短い時間しか与えられなかったため、どんなに頑張っても会場の端では5人ほどしか立ち寄ってもらえませんでしたが、ポスターセッション以外の時間にも、知り合った人に自分の研究内容を短く説明する機会は何回もありました。全くそのような場面を想定していなかったため、しどろもどろな説明しかできませんでしたが、そこで自分の研究課題の面白さについてよりプッシュできるようになると良いことに気付くことができました。
 また、このISDBは私にとって初めての国際学会でした。日本の学会は動物学会、進化学会、発生学会などへの参加経験から、ある程度雰囲気を掴めていたように思います。そこで、世界的にはどのような実験手法がトレンドなのか、また発生学に対してどのような視点でアプローチすることが評価されているのかを知りたかったため、ISDBへの参加は非常に楽しみでした。レクチャー、シンポジウムでは、誰もが興味を持つようなクエスチョンの立て方やプレゼントークの上手さを実感し、非常におもしろく、とても勉強になりました。日本語では、多少プレゼンが分かりづらくても母国語だからわかっていたこともあったのだと気が付き、日本の学会ではあまり意識してこなかった、クエスチョンの上手な立て方について意識することができました。また、思いがけない収穫は、世界中の博士学生やポスドク、またISDBに参加していた他の日本人研究者と知り合えたことです。ヨーロッパに住む学生はアクセスの良さからか気軽に学会に来ているような印象で、国を軽々と超えるフットワークの軽さに驚きました。さらには、国際学会に来るような学生は研究に全て情熱を注いでるものかと思いきや、それぞれ趣味を持っていて、プライベートも研究も颯爽と両立させていくスタイルに共感と憧れを覚えました。日本人研究者とは、かなり分野が離れている人もいたため、逆に国際学会のような場でもないと交流の機会が無かったと思います。国際学会に参加して、研究分野も価値観も視野が広がりました。
 博士課程1年というまだまだ未熟な段階で、このような大きな国際学会に参加した経験は非常に貴重で代えがたいものであると感じています。自分と同じくPhD取得のために研究を進める学生、PhDを取りたてでポスドク先を探す研究者やラボを持ったばかりの若いPIなど、様々な年齢層、キャリア層の人から話を聞くこと、アドバイスをいただくことができました。数年後には、自分にはどういう選択肢が存在し、どのようになりたいのか、具体的な研究者像がより明確になったように思います。この感動と情熱を糧に、これからも研究に邁進していきたいと思います。最後に、このような機会をくださった故岡田節人先生ならびに日本発生生物学会、関係者の皆様に感謝いたします。本当にありがとうございました。
2022.12.08

岡田節人基金 ISDB海外派遣報告書 浅倉祥文(理研BDR)

理化学研究所生命機能科学研究センター
浅倉祥文(博士研究員)
日本発生生物学会岡田節人基金若手研究者海外派遣助成をいただき、2022年10月16日から20日にポルトガル南部Algarve地方のSalgadosという町で開催された、19th International Congress of Developmental Biologyに参加しました。
 コロナウイルスCOVID-19感染症の世界的流行の影響が残る中での海外学会参加でしたので、その点についても経験したことを記載いたします。今後海外へ渡航される方の参考になれば幸いです。

【19th International Congress of Developmental Biologyについて】
 この会議は4年に一度開催されており本来は2021年に予定されていましたが、COVID-19感染症の影響のため1年延期となり、5年ぶりに開催された会議でした。会期中は午前中と夕方に口頭発表があり、昼食の時間を含めて三時間ほどがポスター発表というスケジュールでした。
 口頭発表は半分ほどが招待講演者の有名な先生方による発表で、あとの半分ほどは応募者から選ばれた方による発表でした。私は今回ポスターのみで応募したのですが、一体どのような方が口頭発表に選ばれるのか、次回以降に口頭発表に選ばれるにはどの程度の実績や研究内容が必要なのか、という点にも興味を持っていました。すると選ばれた方は若い方が多かったものの、研究室を主宰する立場にあり有名な学術誌に論文を発表したばかりの先生がほとんどでした。また招待講演者の先生方のお話は数十年の研究の積み重ねの上で新たな知見を議論しており、興味深い発表ばかりでした。こうした研究者になれるよう努力しよう、と思いを新たにしましたが、まだ道は長いようです。
 また会期全体を通じて、研究手法としてオルガノイドや数理・物理的な手法を用いた研究が多数発表されていたことが印象的で、新しい技術や新しい着眼点に基づく最先端の研究発表を多数聞くことができました。発表を聞きながら私の頭に浮かんだ疑問は多くが発表の中でデータと共に答えが与えられていたのですが、質疑応答の時間には、言われてみれば「なるほど」と思うような鋭い質問が多くなされ、対する発表者の方の答えもスマートで、短い時間の中で非常に内容の濃い議論が交わされていました。
 今回私は「Chromatin dynamics during collinear Hox gene expression」というタイトルでポスター発表を行いました。会期中、およそ400名がポスター発表を行っており、ポスター発表の会場は室温が上がるほどの熱気に包まれていました。そのため聞きたいポスターを探すのも、見つけて近くまで移動するのも一苦労という状態ではあったのですが、幸いにも発表時間の間ずっと、興味を持ってくださった方と議論することができました。ただ最も熱心に話を聞いてくださり様々な質問や提案をくださった方が、異なる発生ステージでほぼ同じ実験を予定してグラントをとったばかりだと去り際に教えてくださり、実は競争相手を見つけたので進捗状況に探りを入れる目的もあったのでは、と焦る場面もありました。しかしこうした議論の中で、研究成果の論文化までに必要な要素やさらなる発展の可能性が具体的に見えてきた点が大きな収穫でした。

【COVID-19感染症流行下での海外渡航について】
 2019年の年末ごろから本来の開催予定だった2021年にかけてはCOVID-19の影響から多くの学会が中止や延期となり、開催されてもオンライン会議が主という時期でした。しかし今回はポルトガルの会場で現地開催の会議に参加することができました。
 会議の開催された2022年の10月は、国内ではまだマスクを外して外出する人はほぼおらず、感染対策が国レベルで徹底されていましたが、経済活動とのバランスが議論されはじめた時期でした。例えば9月までは、日本入国の飛行機への搭乗前72時間以内のPCR検査で陰性を証明する必要があったのですが、この検査はワクチン接種回数が3回に満たない者のみと変更され、ワクチン接種が3回以上の者は入国前の検査が不要となりました。そのためニュースでは来日する観光客も増え始めていると言っていましたが、日本国内の空港では人はまばら、という状況でした。
 対してポルトガルや途中の飛行機の乗り継ぎで立ち寄った国では、空港は真っ直ぐ歩けないほどの人で混雑しており、飛行機内や電車中でもマスクをしている人は0.1%もいませんでした。その割には咳やくしゃみをしている人が多く居ましたが。また、利用した航空会社からは「日本出国前72時間以内のCOVID-19陰性証明を携行」するよう案内があったものの、携行していた陰性証明の提示を現地で求められることはなく、流行は終わったものとして扱われている印象でした。
 こういった状況下での学会参加でしたので、学会会場で会った日本人の方は皆さん3回のワクチン接種を済ませたと仰っていました。しかし私は2回目接種日から開けるべき日数のため3回目接種が間に合わず、帰国前の72時間以内の検査で陰性証明をする必要がありました。そのため万一のCOVID-19感染もカバーする海外旅行保険を契約し、さらにほとんどの航空会社で機内持ち込みが許可されているウェットティッシュ型の消毒用アルコールや大量のマスクを日本から持参し、感染しないよう注意しながらの学会参加となりました。会場では食事中にも議論が交わされている中、感染の可能性が気になって食事中は話をするのを躊躇ってしまい、今回の学会参加で心残りな点となってしまいました。
 また帰国用の検査のため、日本の指定の書式で結果を発行してくれる検査場を探したところ、ヨーロッパでは既に検査が必要な場面がほぼ無いためか、学会会場から50km離れた街まで行かないと検査が受けられませんでした。今回私は幸いにも、なんとか辿り着いた検査場で陰性証明が得られたのですが、今後の海外ではCOVID-19の検査が可能な場所を探すのも難しくなると思いますので、その点も下調べが重要だと思います。
 今後は日本でもCOVID-19の影響は緩和していくと期待したいですが、それまではワクチンを何度も打ち、マスクや手洗い、アルコール消毒などの感染対策を続けるのが得策なのだろうと思います。

【謝辞】
 最後に、今回の学会参加を後押ししてくださった所属研究室の森下先生と共同研究者の鈴木先生、そして日本発生生物学会関係者の皆様と故岡田節人先生に深く感謝いたします。貴重な経験を積ませて下さり、ありがとうございました。
2022.12.08

岡田節人基金 ISDB海外派遣報告書 鹿谷有由希(京都大学)

京都大学大学院理学研究科
鹿谷有由希(D5)
この度は、岡田節人基金海外派遣助成のもと、ポルトガルのサルガドスで開催されました第19回国際発生生物学会(ISDB)に参加させていただきました。

 私にとって今回が初めての国際学会であり、参加を決意するのにも随分と勇気を要しましたが、加えて開催地がサルガドスというポルトガルの首都リスボンから遠く離れた聞き慣れない場所であったため、一体どんな町なのか、ちゃんと辿り着けるだろうか、と期待と不安が入り混じったままバタバタと出国しました。途中ポルトガル国内の飛行機の乗り継ぎに遅れが生じたものの、丸一日かけて無事サルガドスのホテルに到着した時は、本当に来たんだなあ、と部屋で一人しみじみと思ったことを覚えています。
 今学会では、私はポスター発表を行いました。ポスター発表は学会二日目と三日目にそれぞれ一時間半ずつ時間が用意されており、私の発表日は二日目でした。19回大会は一年延期されたせいもあってか400近くのポスターがあり、ポスター会場の活気はすごいものでした。そんな中で自分のポスターにも人が来てくれるだろうかと不安な気持ちがありましたが、ポスターの前に立って少しすると一人二人と聞きに来て下さり、気付けばポスター発表の一時間半の間ほとんど休みなく話し続け、会場の熱気と緊張で全力疾走をした後くらい汗だくになっていました。聞きに来てくださった方は私と同じく腸管の研究をされている方が多く、私のたどたどしい英語にも丁寧に耳を傾け、色々と質問やアドバイスをして下さり、次はもっと活発な議論ができるようさらに努力しなければ、という思いを一層強くしました。
 また、ポスターを聞きに来てくれた方と翌日たまたま出会い一緒にお昼を食べたり、懇親会ではジャーナルの編集をされている方とお話をさせていただいたり、対面の学会ならではの楽しみがたくさんありました。学会会場は常に活気にあふれていて、そのあまりの賑わいに、私と話をしていた方のスマートウォッチが「危険な騒音です」とアラームを鳴らしたことが、今でもくすりと笑ってしまう思い出です。さらに休憩時間には、初めて見る大西洋に感動したり、カタプラーナという銀色の大きなどら焼きのような鍋で調理された郷土料理に舌鼓を打ったりと、出国前の不安は何処へやらすっかりポルトガルを満喫しました。

 今学会を通して、英語での発表の経験を得るだけでなく、世界トップクラスの研究者の発表と質疑応答を学んだり、自分と同年代の院生やポスドクと交流を深めたり、今後一人の研究者として生きていくために貴重な経験をさせていただきました。最後になりましたが、旅費をご支援いただきました日本発生生物学会関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
2022.09.14

岡田節人基金 海外派遣報告書 島田龍輝(熊本大学)

熊本大学発生医学研究所
染色体制御分野 助教 島田龍輝
米国バーモント州Mt Snowで8月13日から19日にかけて開催されたGordon Research Seminar (GRS)とGordon Research Conference (GRC); mammalian reproductionに参加しました。GRC; mammalian reproductionは生殖細胞や生殖巣、生殖器官の発生に関する研究者や医療関係者まで幅広く哺乳類の生殖に関わる人が集まるconferenceです。GRSはGRCに先立って行われる若手研究者によって行われる研究集会で、博士課程の学生やpostdocなど立場の近い研究者の発表・交流の場として開催されています。前回2018年の開催から、2020年に予定されていたconferenceが新型コロナウイルスによる開催中止になり、4年ぶりの開催であったことから、久しぶりの開催を心待ちにしていたようで200人近くの参加がありました。ポスターの数も通常は30-40程度の演題が発表されるようですが、今回は104の演題が発表されていました。新型コロナウイルス対策のためポスター同士を離れて配置するために、4グループに分けられ、1回当たり30のポスター発表が行われました。連日異なるポスターが掲示されるため、時間外にポスター前で議論するということはできませんでしたが、限られた時間内に多くの発表者と議論するために常にポスター前で熱心な議論が行われていました。
私は減数分裂の開始と細胞周期のS期を同調する分子機構と、その破綻がメス特異的に不妊につながるという最近の研究結果についてGRSでposter発表を行い、GRCでは口頭発表をしました。GRSでは多くの若手研究者と研究についての意見交換をして交流を深めることができました。GRCでは、スペースの関係からposter発表することができず、口頭発表も会の終盤だったため、当初は活発な交流が期待できないのではないかと危惧していました。しかしながら、参加者は若手からシニアに至るまで熱心で、発表時の質疑応答は時間いっぱいまで議論することができました。さらに発表後も多くの研究者に声をかけていただき、議論を深めることができました。
久しぶりの対面での国際学会で大きな収穫だったのは、多くの研究者と交流できた点です。本会は合宿形式であり、毎日3食の食事時などに、気軽に議論する機会を設けることができます。自身の進めている研究について、同様の現象に興味を持って研究を進めている研究者を食事の時に捕まえて、自身の研究計画について議論して意見をもらうことができました。その研究者とはその後も大会期間中を通して頻繁に議論をして、お互いの考えに理解を深めるとともに、後日改めてzoom meetingをするなど、今後も研究交流の機会を持つことを約束するに至りました。口頭発表をして、多くの人に顔を知ってもらう機会になったことはさることながら、それ以外の場所でも知見と交流を広げるために対面式のGRCに参加できたことは非常に有意義であり、岡田節人基金より補助を受けたことで、このような機会を設けることができたことにこの場を借りて御礼申し上げます。
自分がGRCに参加した当時には、日本は未だ海外からの帰国者にPCRなどによる陰性証明を義務付けていました。このことが積極的な研究交流に悪影響をおよぼしたことは否定できません。私は最初の数日、食事の場などで積極的に交流を持つことは避けるようにしていました。しかし、せっかくの対面であるのだから積極的な交流をしなければ、十分な成果を得られないと感じ、中盤以降には積極的に交流ことにしました。このことにより多くの研究者とリラックスした状態で様々な議論ができ一定の成果が得られたと感じます。on line meetingでは発表者との議論は発表時に限られていますが、on siteではいつでも発表者を捕まえて、個人的な議論を持つことができるため、特に若い研究者のキャリア形成において重要な経験であると感じました。幸運にも私は陰性であることが証明され、予定通り旅程を終えることができました。現在は規制が緩和されることで、日本から国際学会に参加しやすい状況になってきました。国際学会で、発表や研究交流を行うことは若手研究者が交際的に研究を展開するうえで非常に有用であるため、今後はさらに積極的に国際学会に参加し、研究領域の開拓や領域をリードするような研究者と慣れるように、今後も努力していきます。
2022.08.03

岡田節人基金 海外派遣報告書 Flore Castellan(東京大学)

東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻
特任研究員
Flore Castellan
FOCIS 2022 conference (San Francisco) Outcome report

The FOCIS (Federation of Clinical Immunology Societies) meeting focused on translational immunology with participants ranging from molecular biologist to clinicians. It was the perfect place for crossdisciplinary exchanges of ideas to apply our new developmental biology knowledge of maternal cells to their human medical implications and I am grateful to the JSDB in supporting my participation to this meeting.

At the conference, I presented by oral and poster presentations the findings of my recently completed doctoral studies. Our research focused on revealing the nature and roles of maternal cells in pups, and we observed a potential role of maternal cells to prevent adverse immune reactivity in the neonates. On the other hand, potential human clinical involvement of maternal chimerism have been indicated by the research led by Dr. Toshihiro Muraji on the incidence of maternal cells in the congenital disorder biliary atresia. Further translational research is needed to bridge this developmental biology knowledge of maternal cells and their clinical consequences.

At FOCIS, my presentations caught the interest of both medical doctors and scientists lead of medical database repositories, curious of the detectability of maternal cells in publicly available single cells datasets, opening the door to potential interdisciplinary collaborations.

In terms of career development, I had the opportunity to meet professors looking for postdoctoral fellows, and received an offer to join NYU Langone Health where I will be working from next January.

Finally, attending the pre-meeting courses and targeted workshops was very valuable for learning more about the proper methods and pipelines to analyze the immunophenotyping data I collected. In particular, the tools I was introduced to to combine CyTOF data from different batches were directly applied to the data in the paper we will be submitting to an international journal this month.
Photo 1: Poster presentation.
Photo 2: Oral presentation.
Photo 3: Poster presentation sideby- side another UTokyo alumni.
Photo 3: Poster presentation sideby- side another UTokyo alumni.
Photo 3: Poster presentation sideby- side another UTokyo alumni.
2022.02.01

日独合同若手ミーティング 参加報告書 池田達郎(基礎生物学研究所 生殖細胞研究部門)

11月28〜30日にオンラインで開催された日独合同若手ミーティングに参加しました。まずはミーティングを企画していただいたオーガナイザーの先生方に深く感謝申し上げます。私は現在のポスドクの仕事でドイツのグループと5年近く共同研究を行なってきました。それもあり、初めにこの合同ミーティングがドイツで現地開催されると聞いた際は、ぜひ参加してドイツの研究者と直に議論したいと考えていました。コロナ禍により1年延期した上でオンライン開催となってしまいましたが、現在の仕事を海外の方々に聞いてもらって見直す良い機会と考え、発表させていただきました。
今回のミーティングにはドイツの様々な地方の大学、研究所、さらには欧州の異なる国の大学、研究所から選りすぐりの方々が参加していました。ミーティングのテーマは”Stem cells, development, & regeneration: the emergence of new tissues”だったのですが、多様な生物・器官を対象に、胚発生、成長、恒常性維持、老化現象まで注目した話を多数聞くことができました。とりわけ、どの方々も生物の面白い現象に立脚して、基礎の興味をモチベーションに掘り進めているように感じられました。私は特に、魚類の生涯にわたる成長を支える組織幹細胞の研究と、耳に空いた穴を塞いで再生できるトゲネズミの研究に心が惹かれました。また、in vitroモデルの発表も多く、様々な組織の再構成技術が確立してきているとともに、再構成系を用いた発生現象の理解という研究スタイルが一般化していることを認識させられました。
私は” Clonal dynamics of murine developing male germ cells until the next generation”というタイトルで口頭発表しました。マウスでは胎仔に生じた始原生殖細胞(PGC)が増殖して精子幹細胞を生じ、そこから生涯に渡って精子が産生され、次世代の仔が生じます。このとき胎仔のPGC1つ1つがどの程度の幹細胞を作り出して次世代へと寄与するのかを、PGCを多様なDNA配列(バーコード)で標識して、それぞれの子孫細胞(クローン)の動態を追跡しています。このバーコード標識にドイツの共同研究者が開発した技術を適用しています。発生・幹細胞のクローン動態という、ミーティングのテーマと合致した内容だったのもあり、5人の方から質問をいただくことができました。これまで思い描いてきたクローン動態の生物学的な意義を提案し、意見を得ることができました。
  海外の若手PIのエレガントな発表を聞きながら、彼/彼女らがいかに自分の立ち位置を見出し、プレゼンスを築き上げてきたのかを想像していました。どの方も一歩ずつ努力を重ねて模索してきたことが伝わってきました。私も目の前の仕事を最大限に楽しみつつ、彼/彼女らのようになれることを目指して精進しようと思います。
最後に、今回は時差のためドイツ朝、日本夕方に開始するプログラムで行われました。自分のデスクからオンラインで参加できて便利なぶん、夕方まで実験をしてからjoinして夜12時まで英語で発表を聞き、中々タフでした。またZoomではほとんどの聴衆の顔が見えず、発表の後の休憩時間などに気軽に声をかけてもらったり議論が始まったりといったことが中々なく、もどかしさを感じました。来年には海外渡航して実際に異国の研究者と顔を合わせ、リアルな議論ができることを期待しています。
2022.01.05

倉谷滋のお勧め<まとめ第2弾>

倉谷滋先生お勧めのクラッシック論文を紹介します。

11. Bellairs, A. d'A. & Gans, C. (1983). A reinterpretation of the amphisbaenian orbitosphenoid. Nature 302, 243-244.
発生の類似性が形態的相同性と関係あるのかないのかという基本的疑問を提示した論文として有名。

12. McBratney-Owen, B., Iseki, S., Bamforth, S. D., Olsen, B. R. & Morriss-Kay, G. M. (2008). Development and tissue origins of the mammalian cranial base. Developmental Biology 322, 121-132.
新しい実験手法はこうやって使うものだと考えたい。何ができるかではなく、どれだけ深遠な謎を手にしているかということが科学の価値なのだと思う。

13. Meier, S. (1979). Development of the chick embryo mesoblast: Formation of the embryonic axis and establishment of the metameric pattern. Developmental Biology 73, 25-45.
いわゆるソミトメアが最初に報告された記念碑的論文。なんと、あれは70年代だったのか。

14. Metcalfe, W. K., Mendelson, B. & Kimmel, C. B. (1986). Segmental homologies among reticulospinal neurons in the hindbrain of the zebrafish larva. Journal of Comparative Neurology 251, 147-159.
ロンボメアやHox遺伝子で世間が盛り上がっていた一方、このような神経発生学的研究もなされていた。まだゼブラフィッシュが主要なモデル生物になる前のことである。

15. Moody, S. A. & Heaton, M. B. (1983). Developmental relationships between trigeminal ganglia and trigeminal motoneurons in chick embryos. I. Ganglion development is necessary for motoneuron migration. Journal of Comparative Neurology 213, 327-343.
この論文は連作の最初のもの。形態形成の背景に発生機構があることをうまく説明している。

16. Noden, D. M. (1983). The role of the neural crest in patterning of avian cranial skeletal, connective, and muscle tissues. Developmental Biology 96, 144-165.
Nodenが本格的に発生機構に切り込み始めた重要な論文。骨格の形態形成に関する、のちの分子遺伝学的研究の大きな礎になった。

17. Gans, C. & Northcutt, R. G. (1983). Neural Crest and the Origin of Vertebrates: A New Head. Science 220, 268-273.
いわゆる「New Headセオリー」を世に問うた記念碑的論文。その影響力は今でも強い。これ以来、「神経堤=頭部=脊椎動物」という理解が広まった。

18. Garstang, W. (1928). Memoirs: The Morphology of the Tunicata, and its Bearings on the Phylogeny of the Chordata. Journal of Cell Science 285, 51-187.
ガースタングによる「アウリクラリア幼生説」を述べた論文。Evo-Devoの時代になっても、基本的に同じ根本的問題が問われていることが分かる。

19. Gilbet, P. W. (1947). The origin and development of the extrinsic ocular muscles in the domestic cat. Journal of Morphology 81, 151-193.
脊椎動物の外眼筋の発生は昔から大きな謎として認識され、多くの論文が書かれてきた。が、現在、最も形態形成の機構が分かっていない頭部筋がこれである。緻密な記載論文から勉強するのも悪くはない。

20. Bone, Q. (1957). The Problem of the ‘Amphioxides’ Larva. Nature 180, 1462-1464.
Goldschmidtの論文は入手しにくいかも知れない。「amphioxides」とは、ナメクジウオの巨大幼生。はたしてこの正体は何か。後に著名な遺伝学者となったGoldschmidtは学位論文でこの動物を使い、ナメクジウオにすでに鰓弓筋が存在していることを示した。


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2021.08.20

倉谷滋のお勧め<まとめ第1弾>

倉谷滋先生お勧めのクラッシック論文を紹介します。

1. Keynes, R. J. & Stern, C. D. (1984). Segmentation in the vertebrate nervous system. Nature 310, 786–789.
実験発生学のスピリットで、脊椎動物のボディプラン形成に肉薄した論文 他にも同様のクラッシック論文は多いけれど、この1本が蹴散らしてしまった感が・・・

2. Kastschenko, N. (1887). Das Schlundspaltengebiet des Hühnchens. Arch. Anat. Physiol. Archives of Anatomy and Physiology 1887, 258-300.
1951年の HHステージ論文とは異なり、ニワトリ胚(種として頭部、咽頭領域)をまるでサメ胚を扱うように解剖した論文。が、ニワトリ胚頭部の形態発生に関して、これを超える記載はまだなされたことはない。挑戦する価値あり。

3. Detwiler, S. R. (1934). An experimental study of spinal nerve segmentation in Amblystoma with reference to the plurisegmental contribution to the brachial plexus. Journal of Experimental Zoology 67, 395-441.
これも古典。神経堤細胞が脊髄神経節を作ることがまだ常識となっていなかった時代、この論文の弱点を考えるのは良い訓練になる。分節的パターニングについての先駆的研究。これなくしてKeynes & Stern (1984)もありえない。

4. Presley, R. & Steel, F. L. D. (1976). On the homology of the alisphenoid. Journal of Anatomy 121, 441–459.
比較発生学のお手本のような論文。非常に勉強になる論文。オススメ。

5. Presley, R. & Steel, F. L. D. (1978). The pterygoid and ectopterygoid in mammals. Anatomy and Embryology 154, 95–110 (1978).
これも比較発生学のお手本のような論文。だが、多少趣味的。

6. Depew, M. J., Lufkin, T. & Rubenstein, J. L. (2002). Specification of Jaw Subdivisions by Dlx Genes. Science 298, 381-385.
Dlxコードの発見を報告した論文。これによって咽頭間葉の位置価がデカルト座標の上で特異化されていると考えられるようになった。

7. Schneider, R. A. & Helms, J. A. (2003). The Cellular and Molecular Origins of Beak Morphology. Science 299, 565-568.
発生システムのモジュラリティについての論文だというと一般化しすぎか。動物種特異的な形態進化が、神経堤細胞系譜に刻印されていることを示した論文。実験発生学の極致。

8. Schneider, R. A. (1999). Neural Crest Can Form Cartilages Normally Derived from Mesoderm during Development of the Avian Head Skeleton. Developmental Biology 208, 441-455.
形態学的相同性と細胞系譜が常には一致しないことを示した、きわめて重要な論文。このコンセプトは、von Baerの「胚葉説」にまで遡る。

9. Romer, A. S. (1972). The Vertebrate as a Dual Animal — Somatic and Visceral. Evolutionary Biology 6, 121-156.
この論文はいまでは誤りだということが分かっている。が、なぜこれが有名だったのか本当に理解されているだろうか。必読!

10. Arendt, D. & Nübler-Jung, K. (1994). Inversion of dorsoventral axis? Nature 371, 26.
脊椎動物と節足動物のボディプランが互いに背腹反転の関係にあることを示した短報。ある意味、エヴォデヴォの本格的な議論はここから始まったと言えるのかもしれない。



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2021.07.20

おすすめの教科書・書籍1〜5

発生生物学および関連分野の知識を学ぶのにおすすめの教科書を紹介します。

1. Scott F. Gilbert 「ギルバート発生生物学」
発生を一から学ぶには、発生分野の最新情報を日本語で分かりやすく解説している本書がベストです!(太田訓正) 

2. Thomas W. Sadler 「ラングマン人体発生学」
人体がどうやってできてきるのか、発生の時系列に沿って解説されているのでイメージしやすい!先天異常や分子発生学的知見も交えて発生学を学べます。(入江直樹)

3. Toby A. Appel 「アカデミー論争・革命前後のパリを揺がせたナチュラリストたち」
動物の形は全動物に共通する原型を変形させるだけですべて説明できる?それとも機能的決められている?未来の科学を知る私達でも答えるのが難しい古典論争。いろいろと考えさせてくれる。(入江直樹)

4. ① Herman J. C. Berendsen 「データ・誤差解析の基礎」
 ② John R. Taylor 「計測における誤差解析入門」
どちらも誤差解析の標準的な入門書です。データに含まれる誤差の分類や伝搬などを取り扱っています。(杉村薫

5. 砂川重信 「エネルギーの物理学」
対話形式で物理学のエッセンスを解説。第1章と第2章は数式が少なめで、発生生物学研究者にも読みやすいです。(杉村薫


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2021.07.09

第54回日本発生生物学会大会・キャリア支援ランチョンセミナー開催報告

2021.7.7
筑波大学・生存ダイナミクス研究センター
林 良樹
第54回大会の開催にあわせ、6月18日の12時より、第3回キャリア支援ランチョンセミナーが開催されました。今回のセミナーでは“イノベーションはなぜ途絶えたか-科学立国日本の危機-”の著者であります山口栄一先生(立命館大学教授・オルバイオ(株)代表取締役・京都大学名誉教授)をお招きし、お話を伺いました。オンライン開催という特徴を活かし広く参加者を募った結果、民間企業や海外在住者を含む170名を超える方々が来聴され、この問題に対する興味の高さを痛感しました。
 山口先生は上述の著書の内容をわかりやすく解説されるのみならず、数年前の御出版から現在に至るまでの大きな動き(新型SBIR制度の施行、ご自身が主体となる企業等)まで含めてご紹介くださりました。この様なタイプの本が多くの場合情緒的である中で、徹底した“データに基づく解釈・証明”が提示され、また米国のイノベーション危機における基礎学問として “生命科学”の貢献の大きさに心を震わされる思いでした。また山口先生は、新型SBIR制度の実施やご自身による企業に見られるように、解説に止まらない“実践”の人である点もとても感銘を受けるとともに勇気をもらえるものでした。ディスカッションはオンライン越しにも熱を感じるくらいに白熱し、ランチョンとしては異例の時間延長(終了は次のセッションの5分前!)となりました。この様な素晴らしい会にしてくださった山口先生、そして来聴者の方々に感謝いたします。
 セミナーの内容は質疑応答を除いて、学会ウェブページから配信しております。もしお見逃しの方はそちらをご視聴ください。また山口先生が立命館大学において新たに立ち上げられたプロジェクト(REMIX)については、学会ウェブページで順次周知させていただく予定です。こちらもぜひよろしくお願いいたします。
 
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